ナイジェリアでは、超自然的な力を利用して富を得られるとする「金銭儀式(money ritual)」の観念が、犯罪報道や大衆文化の中で繰り返し登場する。儀式といっても実態は一様ではない。植物や動物、護符、祈祷などを使うとされるものから、人間の身体の一部を利用すると称するもの、さらには実際の誘拐や殺人に発展した事件まで、「金銭儀式」という言葉の下にはかなり異なる行為が含まれている。
近年、特に問題となっているのが、インターネット詐欺と呪術的な実践を結びつけた「Yahoo Plus(ヤフー・プラス)」である。ナイジェリアではインターネット詐欺師が俗に「Yahoo boys(ヤフーボーイ)」と呼ばれてきたが、2000年代以降、その一部が詐欺の成功率を上げたり、相手を意のままに操ったりできると信じて護符や儀式を利用する現象が研究者によって報告されるようになった。
そこには単なる「昔ながらの迷信」では説明できない、現代ナイジェリアの経済格差、若者文化、SNS、サイバー犯罪、成功をめぐる価値観が複雑に絡んでいる。
インターネット詐欺と呪術が結びついた「Yahoo Plus」
Yahoo boysという呼称は、初期のインターネット詐欺でYahooメールがよく使われたことに由来するとされる。典型的には、恋愛感情を利用する詐欺、架空の商取引、前払い金詐欺などを通じて被害者から金銭を引き出す。そこへ護符や祈祷、呪術的な儀礼を組み合わせたものがYahoo Plusと呼ばれるようになった。
この現象を早い時期から調査したイバダン大学の社会学者オルダヨ・タデは、2013年の論文で「サイバー・スピリチュアリズム」という概念を用いている。調査では、詐欺師の一部が指輪や護符、身体への切り傷を伴う儀礼などに、電話やインターネットを介した説得力を高める力があると信じていたことが報告された。これは当然ながら超自然的効果が科学的に確認されたという意味ではなく、犯罪者自身がそのような因果関係を信じて行動している、という社会学的事実を示したものである。
さらに2026年、犯罪学誌『Crime, Law and Social Change』に発表されたオースティン・A・アヨデレの研究は、デルタ州ウゲリでこの文化がどのように受け継がれているかを詳しく描いている。研究者は2023年3月から6月に、18~35歳のサイバー犯罪関係者をはじめ、EFCC(経済金融犯罪委員会)職員、警察官、自警団員、若者のリーダー、地域住民など計30人を目的抽出と雪だるま式抽出で集め、対面インタビューを行った。対象地域と人数が限られた質的研究であり、ナイジェリア全国の若者を代表する調査ではないが、犯罪ネットワーク内部の認識を知る貴重な資料になっている。
ある20歳の参加者は、大学を卒業しても仕事を得られない兄を見ながら育ち、「自分も同じようになりたくなかった」と語った。兄は卒業後4年間仕事がなく、得られる仕事があっても非常に低賃金だったという。そこで彼は、すでにサイバー犯罪をしていた友人から方法を学んだ。別の24歳の参加者も、学生として家から受け取る生活費では日々の支出を賄えず、Yahooを「生き残る手段」と位置づけていた。研究では、多くが通常のネット詐欺から入り、仲間や先輩に紹介されてYahoo Plusへ進んだと証言している。
ウゲリでは「HK(Hustling Kingdom)」などと呼ばれる拠点で、経験者が若い参加者にネット詐欺の技術や人脈を教えるケースも確認された。つまり、Yahoo Plusは孤立した個人が突然始める奇妙な行為というより、一部地域では仲間同士の社会的学習によって継承される犯罪文化として分析する必要がある。
「犬のように吠える女性」――SNSで拡散した事件をどう見るべきか
2022年7月、オグン州アベオクタで、裸の若い女性が警察施設内で犬のような声を上げている映像がSNSで拡散した。この映像は「Yahoo boyの金銭儀式の犠牲になった女性」としてナイジェリア国内で大きな話題になった。
オグン州警察の広報官アビンボラ・オイェイェミは、女性が「Yahoo boyによって霊的・呪術的に利用されたとされ、その結果犬のように吠え始めた」という趣旨の声明を出している。女性は服を着ていない状態で警察へ連れて来られ、激しく動いて制御するのが難しかったため一時的に留置された。その後、警察が家族へ連絡し、家族と警察の助けで病院へ搬送されたという。警察は疑われた男性を取り調べのため拘束したとも報じられた。
ただし、この事件を「金銭儀式によって精神異常を起こしたことが医学的に証明された事件」と書くことはできない。警察自身も「利用されたとされる」としており、公開されている情報からは女性の症状の医学的原因は確定できない。薬物、精神疾患、急性の錯乱状態など別の原因を排除できる医学的資料も公表されていないからだ。
むしろこの事件にはもう一つ重要な側面がある。警察は、裸で混乱している女性を撮影した映像がSNSで拡散されたことについて、被害者の尊厳を傷つけ、さらなる心理的苦痛を与えかねないとして批判した。つまり、このケースはYahoo Plusをめぐる噂だけでなく、センセーショナルな映像がSNSで急速に「金銭儀式の証拠」として解釈されていく過程を示す事例でもある。
金銭儀式について考える際には、この区別が欠かせない。儀式の超自然的効果が事実であることと、人々がその効果を信じ、その信念に基づいて現実の犯罪や虐待を行うことは別問題だからである。
1歳8か月の息子を殺した父親――信念が現実の殺人に変わるとき
一方、呪術の効果そのものとは無関係に、「金銭儀式を行えば富を得られる」という信念が殺人の動機になったと警察が発表した事件も実際に起きている。
2022年6月、デルタ州警察は33歳のボルト(Volt)・ブレッシング・ガブリエルを逮捕した。妻のサクセス・オドゥワは、1歳8か月の息子ゴッドパワー・ガブリエルの姿が見えなくなり、夫が「妹のところにいる」と説明したことを不審に思って警察に通報した。
警察発表を報じた『THISDAY』によれば、ガブリエルは逮捕後、ベニンシティ郊外で息子を殺害したことを認めた。さらに、子どもの血を自分の頭につければ富を得られるという考えに従って犯行に及んだと供述したとされる。
この種の事件について、「儀式殺人がどれほど増加しているのか」を正確に示す全国統計は乏しい。ナイジェリア国立立法民主研究所(NILDS)が2025年に公表した政策文書も、儀式殺人について正確な統計が不足し、過少報告の問題があることを認めている。そのため、個々の猟奇的事件を並べて「全国で爆発的に増えている」と結論づけるのは慎重であるべきだ。
それでも、犯罪そのものが過去のものになったわけではない。ニジェール・デルタ地域の2025年の紛争・治安報告にも、女性や少女を狙った暴力の一部として、儀式目的とされた殺害や遺体損壊、臓器採取に関連する事件が記録されている。
なぜ若者は「すぐ金持ちになれる」という物語に引きつけられるのか
金銭儀式を単純に「教育を受けていない人々の迷信」と説明することは、現在の研究と合わない。Yahoo boysについては大学生や卒業生が含まれることが古くから指摘されており、2026年のウゲリ調査でも学生や大卒者がインタビュー対象となっている。
経済的困難は一つの要因だが、それだけでも説明できない。研究で繰り返し指摘されるのは、貧困や失業、同世代からの圧力、短期間で富を得た人物への憧れ、豪華な生活を可視化するSNS、正規の教育や労働によって社会的地位を上げられるという期待の低下などである。
2024年にオグン州のアベオクタ南部とアド・オド/オタを対象として行われた質問紙研究でも、十代の若者が金銭儀式に関与する背景として、仲間からの圧力や富への強い欲求が挙げられた。ただし、この研究は特定地域の住民を対象とした記述的研究であり、ナイジェリア全体の若者について割合を示す全国調査ではない。
より具体的なのが、インターネット詐欺からYahoo Plusへ進んだ27歳男性「オラジデ」の証言である。2023年の『Punch』の取材によれば、彼は大学卒業後、オスン州オショグボで友人の養豚場を手伝い、月1万ナイラ程度を得ていたが、生活が苦しくなったことをきっかけに友人からネット詐欺を教えられた。
当初はネット詐欺だけで少額を稼いでいたものの、やがて収入が得られなくなった。そこで別の友人からイスラム系聖職者を紹介された。この人物は、植物や動物を利用する比較的軽い儀礼と、人間の身体を利用すると称する儀礼を区別して説明したという。オラジデは前者を選び、材料代として1万2000ナイラを支払った。しかし期待した富は得られず、むしろ儀式を提供する側に金を支払い続ける構造へ入り込んでいった。これは一個人の報道インタビューであって一般化はできないものの、「金銭儀式」がそれを求める人自身から金銭を吸い上げる詐欺としても機能し得ることを示している。
ここには、金銭儀式を「本当に金が生まれる魔術」として考えるより重要な問題がある。効果が存在するかどうかにかかわらず、人がそれを信じれば、儀式を販売する者へ金を払い、犯罪へ加担し、場合によっては他人を傷つけることが可能になるからだ。
犯罪を支えるのは「呪術」だけではなく、周囲の社会でもある
Yahoo Plusを扱う研究で近年注目されているのは、犯罪者本人だけでなく、その周囲にある社会環境である。
2020年に公表されたイバダンの民族誌研究では、Yahoo boys 15人と地域住民30人への詳細な聞き取りが行われた。研究者らは、サイバー犯罪を抑えることが難しい背景として、犯罪者が孤立しているのではなく、家族、友人、芸能人、宗教関係者、政治家、警察官、銀行関係者など、さまざまな人間関係から便宜や社会的承認を得るケースがあると報告した。これは「ナイジェリア社会全体が犯罪を支持している」という意味ではなく、一部の地域社会やネットワークの中で、犯罪による富が社会的地位に変換されることが抑止を難しくしているという指摘である。
2026年のウゲリ調査でも似た構造が現れている。ある地域住民は、Yahoo boysが高額な商品でも値切らず購入するため、衣料品などの価格が彼らの購買力に合わせて上昇し、普通の収入で生活する住民が買いにくくなったと語った。その一方で、彼らの消費によってブティックや商店が繁盛しているとも述べている。犯罪収益が地域経済に流れ込むことで、犯罪者が単なるアウトサイダーではなく、「金を地域へ落とす成功者」として扱われる矛盾した状況が生まれる。
同じ研究では、中高生年代の若者が経験者から詐欺を教わり、「学校の先生より多く稼げる」と考えて教育への関心を失う状況も聞き取られた。研究者は、犯罪によって得た富を称賛する環境そのものが、次世代への社会的学習を生み出していると分析している。
こうした研究から見えてくる金銭儀式は、古代から変わらず残った「迷信」ではない。スマートフォン、SNS、国際的なオンライン詐欺、若者の失業、消費文化、地域社会の評価、伝統的な宗教観念が結びつきながら形を変えている現代的な犯罪文化でもある。
そして対策も「呪術を信じるな」と訴えるだけでは足りない。犯罪捜査と被害者保護はもちろん、若者が正規の教育や労働によって生活を改善できる環境、犯罪収益を成功の象徴として称賛しない社会規範、犯罪ネットワークへ若者を取り込む仕組みへの介入が必要になる。2026年の研究も、刑罰だけに依存するのではなく、学校や家庭、宗教者、地域指導者などを含む対策と、若者に現実的な経済的選択肢を提供する必要性を指摘している。
金銭儀式をめぐる最大の危険は、超自然的な力そのものではない。「人間を犠牲にすれば富を得られる」「犯罪でも金を持てば成功者として認められる」という物語を信じる人間が存在し、それを利用して利益を得る人間や犯罪ネットワークが現実に存在することである。そこでは、信念が詐欺を生み、詐欺が社会的成功に見え、その成功が新たな参加者を呼び込む循環が形成される。その連鎖を断つことこそ、金銭儀式をめぐる問題の核心にある。
出典
Oludayo Tade — A spiritual dimension to cybercrime in Nigeria: The ‘yahoo plus’ phenomenon
Human Affairs, 2013
https://www.degruyter.com/document/doi/10.2478/s13374-013-0158-9/htmlOlayinka Akanle & Babajide Richard Shadare — Why has it been so difficult to counteract cybercrime in Nigeria: evidence from an ethnographic study
International Journal of Cyber Criminology, 2020
https://ujcontent.uj.ac.za/esploro/outputs/journalArticle/Why-has-it-been-so-difficult/9910141207691Austin A. Ayodele — Emergence of cyber-spiritualism in Ughelli: the Ghana-Burgers cybercrime rampage in Nigeria
Crime, Law and Social Change, 2026
https://link.springer.com/article/10.1007/s10611-025-10256-zZabur Olayiwola Soluadeほか — Mitigating the Causes of Teenagers’ Involvements in Money Ritual and Related Activities in Ogun State, Nigeria
Àgídìgbo: ABUAD Journal of the Humanities, 2024
https://journals.abuad.edu.ng/agidigbo/article/view/919Victor Ayeni — Money ritual seekers’ dark walk into deceit, misery
Punch Newspapers, 2023
https://punchng.com/money-ritual-seekers-dark-walk-into-deceit-misery/Daud Olatunji — Police confirm report on lady who strips naked, barks like a dog
Punch Newspapers, 2022
https://punchng.com/police-confirm-report-on-lady-who-strips-naked-barks-like-a-dog/Omon-Julius Onabu — Man Arrested for Killing Son for Money Ritual in Delta
THISDAY, 2022
https://www.thisdaylive.com/2022/06/27/man-arrested-for-killing-son-for-money-ritual-in-delta/Nigeria — Criminal Code Act, Section 214
WIPO Lex
https://www.wipo.int/wipolex/en/legislation/details/5591National Institute for Legislative and Democratic Studies — Rising Cases of Ritual Killings in Nigeria: Imperatives for Legislative Intervention
NILDS, 2025
https://ir.nilds.gov.ng/handle/123456789/1698?show=fullFoundation for Partnership Initiatives in the Niger Delta — Niger Delta Annual Conflict Report: January–December 2025
PIND, 2026
https://ndlink.org/wp-content/uploads/2026/03/Niger-Delta-Annual-Conflict-Report-2025.pdf




