テレビを薬物に変える犯罪集団?南アフリカ「プラズマギャング」都市伝説の正体

テレビを薬物に変える犯罪集団? 南アフリカ「プラズマギャング」都市伝説の正体 怪奇
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2013年、南アフリカ最大の都市ヨハネスブルグの一角で、奇妙な犯罪集団の噂が広がった。「プラズマギャング」と呼ばれる男たちが住宅に押し入り、大型テレビを盗んでいるという。目的はテレビそのものを転売することではない。内部にある「白い粉」を取り出し、それを危険なストリートドラッグ「ニャオペ」の原料にするためだというのだ。

殺人、薬物、呪術、謎の電子機器までが登場するこの話は、新聞やラジオ、SNSを通じて急速に拡散した。しかし警察の捜査でも、テレビの構造を調べた科学者の検証でも、その核心部分を裏付ける証拠は見つからなかった。それでも噂が現実味をもって受け入れられた背景には、実在する犯罪と薬物依存、警察への不信、貧困と格差があった。

「プラズマテレビを狙う殺人ギャング」という噂

プラズマギャングの噂が大きく報じられるようになったのは2013年半ばだった。舞台となったアレクサンドラは、ヨハネスブルグ北部に位置するタウンシップで、アパルトヘイト時代の都市政策が残した人種的・経済的格差を現在まで抱えている地域である。人口については資料によって大きな差があり、南アフリカ統計局による2011年国勢調査の「Alexandra Main Place」の人口は17万9624人だった。一方で、地域の境界や非公式居住者をどこまで含めるかによって、これを大幅に上回る推計も報道されてきた。そのため、「現在約70万人」といった数字を単純に確定値として扱うことはできない。

2013年8月には南アフリカ紙『The Star』などが、アレクサンドラで数か月のうちに複数の殺人事件が起き、それらがプラズマテレビを狙う集団と関係しているとの住民や政治家の主張を報じた。噂によれば、犯人たちはテレビ内部から粉末やガスのような物質を取り出し、それをニャオペの製造に利用していたという。さらに、特殊な機械によって住宅の外からプラズマテレビの位置を探知する、侵入時には住民を眠らせる薬や呪術を使う、といった話まで加わった。

同年9月には、実際に自宅へ侵入されてプラズマテレビを盗まれたという夫婦の証言も地元紙に掲載された。つまり、テレビを含む家財を狙った住宅侵入や強盗そのものは現実に起きていた。しかし、それが薬物原料を目的とする特定の「プラズマギャング」によるものだったかどうかは別問題である。当時の警察は、捜査から得られた情報では「テレビ内部の粉を薬物に使うために盗んでいる」とする証拠はないと説明していた。プラズマテレビが盗まれる事件はあったものの、それだけが特別に狙われていたわけではなく、通常の転売目的の窃盗と考えられていたのである。

犯罪そのものが架空だったわけではない。実際の空き巣や強盗事件が存在し、その上に「テレビの中から薬物を取り出す特殊な犯罪組織」という物語が重ねられていったと考える方が、当時の記録には合っている。

テレビの「白い粉」は本当にドラッグになるのか

噂の核心にあったのが、「プラズマテレビの中にはニャオペを作れる白い粉がある」という話だった。そもそも「プラズマ」とはテレビ内部に詰められた薬品の名前ではない。物質の状態の一つで、プラズマディスプレイでは電気放電によって紫外線を発生させ、それを蛍光体に当てて映像を表示する。

プラズマディスプレイには、表示電極の近くに酸化マグネシウムを使った保護層が設けられている。これが「テレビ内部の白い物質」と結び付けられ、薬物の原料になるという噂へ変化した可能性がある。しかし、酸化マグネシウムそのものにニャオペのような陶酔作用はない。

2013年には、南アフリカのラジオ局702とヨハネスブルグ大学の化学者エドウィン・ムトラネが実際にプラズマテレビを分解し、噂を検証している。テレビ内部から得られた白い物質の性質を調べた結果、薬物として作用するものではないと説明された。つまり、テレビを壊せば違法薬物の有効成分が手に入るという話には、化学的な根拠がなかった。

それでも噂が簡単には消えなかったところに、この都市伝説の特徴がある。人々にとって説得力をもっていたのは、テレビ内部の化学物質についての説明そのものより、「薬物依存者が金や薬物を得るために家財を狙う」という、より身近な現実だった。

実在する薬物「ニャオペ」が噂に現実味を与えた

プラズマギャングという組織の実在は確認されなかったが、その物語に登場するニャオペは実在する。ニャオペは「ウォンガ」「フーンガ」などの名称でも呼ばれる南アフリカのストリートドラッグで、2000年代以降、とりわけ貧困地域で社会問題として注目されるようになった。

ただし、ニャオペを「決まった材料から作られる一種類の薬物」と考えるのは正確ではない。研究では、ヘロインなどのオピオイドを中心として、地域や時期によってさまざまな物質が混ざった不均一な製品群として捉えられている。過去の報道では、大麻、カフェイン、粉ミルク、重曹、家庭用薬品、抗HIV薬などが混ぜられると盛んに伝えられてきたが、「ニャオペには必ず特定の物質が入っている」と断定できるわけではない。

2026年5月に学術誌『Toxics』で発表された研究では、南アフリカ警察がツワネ都市圏の6地域から押収した8つのニャオペ試料が高分解能質量分析によって調べられた。その結果、ヘロイン、モルヒネ、コデインなど多数のオピオイド関連物質に加え、ジアゼパム、クロロキン、カフェイン、アセトアミノフェンなど、多様な化合物が推定された。試料数は8点と少なく、各成分の量も測定されていないため、これを南アフリカ全体の「標準的なニャオペの成分」とみなすことはできない。それでも、街頭でニャオペとして流通するものの中身が一定していないことを示す研究の一つである。

2023年のシステマティックレビューでは、19研究、計807人のニャオペ使用者を対象とした研究結果が整理された。そこでは、依存だけでなく、感染症や精神的な問題、社会生活への影響など幅広い問題が報告されている。また、薬物を購入するための金を得る目的で、家族や周囲から物を盗むといった行動も研究対象者の証言に現れている。

さらに近年の質的研究では、こうした状況が具体的な言葉で記録されている。ツワネでニャオペ使用者10人に聞き取りを行った研究では、自分の携帯電話や家財を売ったり、家族からもらった食費を薬物に使ったり、家の中の物を盗んで売ったりしたという証言が報告されている。ある参加者は、高価な物であっても薬物を早く手に入れたいときには、本来の価値よりはるかに安い金額で売ってしまう状況を語っていた。

家族側の体験も深刻である。2024年に公表された家族への聞き取り調査では、家財を盗まれないよう寝室に鍵を掛けるようになったという親や、本人が外で犯罪を起こすことを恐れて、薬物を買うための金を渡してしまう家族の証言が記録されている。別の研究では、電子レンジや冷蔵庫まで安値で売却されたという家族の話も紹介されている。

こうした体験を踏まえると、「薬物依存者が家電製品を狙う」という部分には、完全な空想だけではなく、地域社会で実際に経験されていた窃盗や家財売却の記憶が重なっていたと考えられる。ただし、研究で確認されているのは、家財を「売って現金化する」行動であって、プラズマテレビを分解し、内部から薬物成分を取り出す行為ではない。この二つを混同することはできない。

犯罪、薬物、呪術――なぜ噂は巨大化したのか

プラズマギャングを都市伝説として本格的に分析したのが、ヨハネスブルグのウィットウォーターズランド大学でメディアや文化を研究するニッキー・フォークオフである。2022年の著書『Worrier State: Risk, Anxiety and Moral Panic in South Africa』では、プラズマギャングを、犯罪や消費、社会的不安をめぐる南アフリカのモラルパニックを読み解く事例として取り上げている。

噂が広がるにつれて、その内容はますます複雑になった。犯人は特殊な電子機器を使って、家の外からプラズマテレビの存在を探知する。侵入時には、住民を眠らせるため「ムティ」と呼ばれる伝統的な薬や呪術を使う。目を覚ました住民は殺される。そして盗んだテレビを分解して秘密の粉を取り出し、ニャオペを作る――。現代的な電子技術、薬物犯罪、超自然的な力が一つの犯罪物語にまとめられていった。

フォークオフの分析で重要なのは、この話を単に「非科学的な噂を信じた人々の迷信」として処理していない点である。当時の南アフリカでは、住宅侵入や強盗は現実の問題だった。薬物依存と窃盗の結び付きも人々の生活の中で実感されていた。失業や貧困、格差、住宅問題が存在し、警察や行政に対する不信もあった。人々が不安を感じる材料そのものは、決して架空ではなかったのである。

ニャオペをめぐる近年の地域調査でも、住民が薬物使用者による窃盗を恐れる一方、警察へ情報を提供した後の報復を心配したり、警察が十分に対応してくれないと感じたりする様子が報告されている。地域住民が自分たちで薬物使用者を追い出したという証言もあり、犯罪、薬物、警察への不信が互いに結び付いている状況がうかがえる。

そう考えると、「プラズマギャング」は何もないところから突然生まれた怪談ではない。実際の空き巣や強盗があり、薬物を買うために家財を盗む人もいる。テレビなどの電化製品は換金できる。ニャオペは中身が一定しておらず、「何が混ざっているのか分からない薬」という印象も強い。そこへ「テレビの中には白い粉がある」という半端な科学知識が加わり、ばらばらだった不安が一つの分かりやすい物語へと組み立てられた。

プラズマギャングという組織の存在を示す確かな証拠は確認されていない。それでも、この都市伝説が表現していた恐怖まで架空だったわけではない。むしろ現実に存在していた犯罪、依存症、貧困、格差、警察への不信といった複数の問題が、「テレビからドラッグを作る犯罪集団」という姿を借りて可視化されたのである。

プラズマテレビの白い粉に、人を陶酔させる力はなかった。しかし、その粉をめぐって生まれた奇妙な物語には、当時の南アフリカ社会が抱えていた不安が濃縮されていた。科学的にはあり得ない話が、人々にとっては現実以上に「ありそうな話」と感じられる。プラズマギャングの都市伝説は、噂がどのように現実の断片を吸収しながら成長していくのかを示す一例でもある。

出典

Nicky Falkof — Plasma gangs: How South Africans’ fears about crime created an urban legend
Mail & Guardian / The Conversation, 2022
https://mg.co.za/2022-07-04-plasma-gangs-how-south-africans-fears-about-crime-created-an-urban-legend/

Nicky Falkof — Worrier State: Risk, Anxiety and Moral Panic in South Africa
Manchester University Press, 2022
https://manchesteruniversitypress.co.uk/9781526171887/

Statistics South Africa — Alexandra, Census 2011
https://www.statssa.gov.za/?id=11305&page_id=4286

IOL / The Star — Plasma TV powder drug craze
2013
https://iol.co.za/news/2013-08-29-plasma-tv-powder-drug-craze/

Sowetan — Plasma gang ‘a rumour’: police
2013
https://www.sowetan.co.za/news/2013-08-30-plasma-gang-a-rumour-police-/

Rosebank Killarney Gazette — Plasma gang strikes again
2013
https://www.citizen.co.za/rosebank-killarney-gazette/news-headlines/2013/09/12/plasma-gang-strikes-again/

TechCentral — Plasma TV drugs myth busted
2013
https://techcentral.co.za/plasma-drugs-myth-busted/188765/

International Energy Agency — Gadgets and Gigawatts: Policies for Energy Efficient Electronics
https://iea.blob.core.windows.net/assets/a2a71af2-ea59-4210-878e-446322158d5b/GadgetsandGigawattsPoliciesforEnergyEfficientElectronics.pdf

Varshneyほか — A Systematic Review of Risk Factors and Consequences of Nyaope Usage
AIDS and Behavior, 2023
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9908705/

Mthembiほか — Chemical profiling of the street cocktail drug ‘nyaope’ in South Africa using GC–MS I
Forensic Science International, 2018
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30296627/

Ratshisusuほか — Chemical Profiling of Nyaope and Its Public Health Implications
Toxics, 2026
https://www.mdpi.com/2305-6304/14/5/410

Exploring factors underlying the use of nyaope in Tshwane, South Africa: A qualitative study
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12424043/

Experiences of families living with Nyaope users in Tshwane, Gauteng province
Health SA Gesondheid, 2024
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11019070/

Family’s perceptions of their members who use nyaope in Tshwane, South Africa
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11952264/

Exploring the perspectives of community members on use of Nyaope in Tshwane, South Africa
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10546252/

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