性器は、生まれ持ったものを一生使い続ける器官――そんな常識が、少しずつ揺らぎ始めている。再生医学や組織工学の進歩によって、失われた機能を回復させるだけでなく、本人の細胞から性器の一部を作り直す研究まで進んでいる。
性器を「治す」から「作る」医療へ
再生医学は、病気や事故などで失われた組織や機能を取り戻すことを目指す分野である。性器でいえば、傷んだ血管や神経を回復させて勃起機能を取り戻す、損傷した子宮を修復する、といった研究が含まれる。
組織工学は、再生医学の中でも、患者本人の細胞を使って新しい組織を作る技術に重点を置く。少量の細胞を採って増やし、立体的な土台の上で育てることで、尿道や膣、陰茎の一部などを作ろうとする。土台には、時間がたつと体内で分解される材料や、元の臓器から細胞だけを取り除いて形を残したものなどが使われる。
こうして生まれた技術が、生殖器の病気や先天的な異常、性別適合医療などに応用される。生殖医療は妊娠や出産だけでなく、生殖器の機能を保ったり回復させたりする医療でもあり、再生医学や組織工学との重なりが大きくなっている。
ウサギは人工的に作った陰茎組織で再び交尾できた
男性器については、EDの再生治療からさらに進み、勃起する組織そのものを作る研究が行われている。陰茎の内部には、血液が大量に流れ込むことで膨らみ、陰茎を硬くする陰茎海綿体という組織がある。ここが大きく失われれば、バイアグラを飲んでも元の状態には戻せない。
そこで米国のウェイクフォレスト大学の研究チームは、ウサギを使い、陰茎海綿体そのものを作り直す実験を行った。まずウサギの陰茎から細胞を採取して増やし、別に用意した陰茎海綿体の形をした土台に植え付けた。細胞を十分に育てた後、ウサギの元の海綿体を取り除き、人工的に育てた組織へ置き換えた。
2010年に発表された結果では、新しく作った組織に血管や筋肉が形成され、刺激を与えたときに陰茎内部の圧力が上昇した。つまり、外見だけを再建したのではなく、勃起する組織として働いたのである。両側の海綿体をこの方法で再建された雄ウサギは、雌と交尾し、実際に妊娠させることにも成功した。
一方で、この実験で作られたのは陰茎全体ではない。人間の陰茎には海綿体のほか、皮膚、尿道、血管、神経など多くの組織が集まっている。勃起できても、十分な感覚が戻らなければ性器として完全に機能したとはいえない。研究から十年以上たった現在も、この方法で人間の陰茎を丸ごと作って移植した例はない。
人間では、陰茎全体ではないものの、尿道を本人の細胞から作った例がある。2011年に『ランセット』で発表された研究では、尿道に大きな損傷がある10~14歳の少年5人から細胞を採り、筒状の土台に育てて新しい尿道を作った。移植後は最長76か月追跡され、5人とも排尿できる状態を維持していた。陰茎を一つの器官として作るにはまだ距離があるものの、勃起する部分と尿の通り道という重要な構造については、本人の細胞を使った再建がすでに試みられている。
4人の少女に「本人の細胞から育てた膣」を移植
女性器では、人間でさらに踏み込んだ研究が行われている。2014年に医学誌『ランセット』で発表された研究では、先天的に膣が十分に形成されなかった4人の女性に、本人の細胞から作った膣が移植された。
4人は13~18歳だった。研究者はそれぞれの外陰部から小さな組織を採取し、そこから必要な細胞を分離して増やした。次に、一人ひとりの体に合う大きさの膣型の土台を作り、その内側と外側に細胞を植え付けた。それを実験室で育てた後、本人の体内へ移植した。
最長8年間の観察では、移植された部分に、通常の膣にみられるような表面の層や筋肉などが形成されていた。MRIや内視鏡による検査でも大きな異常は認められず、長期的な重大合併症も報告されなかった。成人後に行われた性機能についての調査でも、性的な欲求、興奮、潤滑、オーガズム、性交時の痛み、満足度などはいずれも正常範囲だった。
ただし、成功したのは4人という非常に小さな集団である。この研究から十年以上が経過しても、同じ方法が数百人規模で使われる標準治療になったわけではない。また、対象は先天的に膣の形成が不十分だった女性であり、トランス女性に同じ方法で膣を作れることまで証明した研究ではない。
現在の性別適合手術で膣を形成するときには、陰茎や陰嚢の皮膚、腹膜、腸など、もともと体内にある別の組織を利用する。一方、組織工学が実用化すれば、本人から少量の細胞を採り、それを育てて膣に近い組織を作る方法が考えられる。現在の成功例は限られているものの、「自分の細胞から性器を作り、長期間機能させる」ことそのものは、人間ですでに実証されている。
陰茎と膣の両方を持つという選択
性器をめぐる変化は、作り方だけではない。「男性器か女性器か、どちらか一方にしなければならない」という考え方も変わり始めている。
2024年に発表された研究では、一般的な性別適合手術とは異なる希望を持つ16人について、その人ごとに調整した性器形成手術が報告された。そこには、陰茎を残したまま膣を新しく形成する手術や、膣を残しながら陰茎を形成する手術が含まれていた。性器を一方から他方へ交換するのではなく、両方の特徴を残した身体を希望する人が、すでに実際の医療を受けているのである。
ただし、これは組織工学で作った性器を追加したものではない。現在利用できる外科手術を組み合わせ、もともとの組織をできるだけ残しながら行う方法である。そのため、材料として使える組織には限界がある。陰茎を作る場合には腕や太ももなどから大きな皮膚を取ることがあり、その部分に目立つ傷が残る場合もある。膣を作る場合にも、元の性器周辺の組織や腹膜などを利用する必要がある。
ここに組織工学が加われば、状況が変わる可能性がある。本人から採った少量の細胞を増やし、必要な組織を別に作ることができれば、元の性器を大きく犠牲にせず、新しい組織を追加することが考えられる。現在ある陰茎を保ちながら膣を作る、現在ある膣を残しながら新しい陰茎の主要部分を育てる、といった方法である。
さらに将来は、陰茎と膣という完成された二種類の性器をそのまま再現する必要さえなくなるかもしれない。排尿しやすいこと、性感があること、勃起すること、挿入すること、挿入されることといった機能を分け、本人が望む組み合わせに合わせて性器を作るという発想である。
現在の段階では、その自由度を組織工学によって実現できてはいない。しかし、「陰茎も膣も持ちたい」という希望自体はすでに現実の医療で扱われており、技術の側がその希望に追いつこうとしている段階だと見ることもできる。
子宮を作る実験では「妊娠して出産」まで成功した
子宮は膣や陰茎よりもはるかに複雑である。子宮の内側には受精卵が着床できる組織が必要であり、その外側には妊娠中に大きく広がり、出産時には強く収縮できる筋肉がある。さらに胎児を育てるため、大量の血液を送り続けなければならない。
それでも、動物では本人の細胞を使って子宮の一部を作り直し、妊娠・出産させるところまで研究が進んでいる。2020年に『Nature Biotechnology』で発表された研究では、ウサギの子宮の大部分を切除し、その部分を人工的に作った組織で再建した。研究者は、時間がたつと分解される材料で子宮の形に近い土台を作り、そこにそれぞれのウサギ自身から採った子宮の細胞を育ててから移植した。
半年後に調べると、本人の細胞を植え付けたグループには、子宮の内側の組織、腺、血管、筋肉など、正常な子宮に近い構造ができていた。その後ウサギを交配させると、細胞を使って再建された10匹のうち4匹で、再建部分に正常な妊娠が成立した。胎児は最後まで成長し、生きた子ウサギも誕生した。
一方で、10匹すべてが成功したわけではない。また、細胞を加えず土台だけを使ったグループでは、同じように正常な子宮組織は作られなかった。形だけを真似た人工材料を入れれば子宮になるのではなく、適切な細胞が育ち、血管や筋肉を含む本物に近い組織を作ることが必要だった。
ラットを使った別の研究でも、作り方によって結果が大きく変わった。研究者たちは、子宮から元の細胞を取り除いて土台だけを残す方法を3種類試し、それぞれに新しい細胞を加えて子宮を修復した。二つの方法では再建した部分にも胎児が育ったが、三つ目の方法では胎児の数自体が大幅に減り、再建部分には胚が一つも確認されなかった。臓器の形が同じでも、作製の途中で組織をどのように処理したかによって、その後の妊娠能力まで変わってしまうのである。
人間では、本人の細胞から作った子宮を移植して妊娠・出産した例はまだない。人間の子宮は動物実験より大きく、妊娠期間も長い。数週間ではなく何か月も血液を送り続け、大きくなる胎児に合わせて伸び、最後には出産に耐えなければならない。そのため、「子宮らしい組織を作れた」という段階と、「人間の妊娠を最後まで支えられる子宮を作れた」という段階の間には、まだ大きな距離がある。
性器は「生まれ持ったもの」から「作るもの」になるのか
2010年には、本人の細胞から作った陰茎海綿体によってウサギが再び勃起し、交尾できるようになった。2011年には、人間の少年5人に本人の細胞から作った尿道が移植され、数年間機能した。2014年には4人の女性に本人の細胞から作った膣が移植され、最長8年間の成績が報告された。そして2020年には、本人の細胞を使って子宮を再建されたウサギが妊娠し、生きた子どもを産んだ。
その一方で、人間の陰茎や子宮を丸ごと作れる段階には達していない。子宮の実験では、同じ発想でも作り方を変えるだけで妊娠できなくなる例があり、人間の膣で良好な結果が出た研究も対象は4人にすぎない。成功例だけを並べれば急速に完成へ近づいているように見えるが、実際には、一つずつ条件を探している研究段階にある。
それでも、「性器は生まれ持ったものをそのまま一生使う」という考え方は、すでに絶対ではなくなっている。少なくとも一部の組織では、本人の細胞を増やし、必要な形に育て、体へ戻すことが現実になっている。
さらに性別適合医療では、陰茎か膣のどちらか一方だけを選ばない手術も始まった。現在は外科医が既存の組織を組み替えることで実現しているが、組織工学が十分に進めば、「今あるものを削って別のものに変える」のではなく、「必要な組織を自分の細胞から新しく作り、現在の身体へ加える」という考え方に変わる可能性がある。
再生医学と組織工学は、もともと病気や事故で失ったものを取り戻すために発展してきた。しかし、自分の細胞から新しい性器を作れるようになれば、その技術が使われるのは「元に戻す」場合だけとは限らない。どの性器を持ち、どの機能を残し、何を新しく加えるのか。性器を「治療する」研究は、少しずつ、身体の性をどこまで作り替えられるのかという研究へつながり始めている。
出典
Chen KL, Eberli D, Yoo JJ, Atala A — Bioengineered corporal tissue for structural and functional restoration of the penis
Proceedings of the National Academy of Sciences, 2010
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19915140/Raya-Rivera A, Esquiliano DR, Yoo JJ, et al. — Tissue-engineered autologous urethras for patients who need reconstruction: an observational study
The Lancet, 2011
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21388673/Raya-Rivera AM, et al. — Tissue-engineered autologous vaginal organs in patients: a pilot cohort study
The Lancet, 2014
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24726478/Magalhaes RS, Williams JK, Yoo KW, Yoo JJ, Atala A — A tissue-engineered uterus supports live births in rabbits
Nature Biotechnology, 2020
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32601434/Hellström M, et al. — Bioengineered uterine tissue supports pregnancy in a rat model
Fertility and Sterility, 2016
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27068301/Ascha M, et al. — Individually customized gender affirming genital procedures: techniques and considerations
The Journal of Sexual Medicine, 2024
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39228250/




