動物の大量死は陰謀論を生む!ビル・ゲイツや5G・ワクチンが「原因」とされる物語

動物の大量死は陰謀論を生む!ビル・ゲイツや5G・ワクチンが「原因」とされる物語 社会
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何百頭もの牛が死に、何千羽もの鳥が地面に落ち、海岸を大量の魚が埋め尽くす。こうした光景は、それだけで強烈な印象を与える。原因がすぐに分からなければ、「普通ではないことが起きたのではないか」「誰かが意図的に引き起こしたのではないか」という疑念も生まれやすい。

実際、インターネット上では動物の大量死が、ワクチン、5G、原発、風力発電、そしてビル・ゲイツのような著名人と繰り返し結びつけられてきた。興味深いのは、事件ごとにまったく新しい陰謀論が生まれるわけではないことである。すでに存在している不安や疑惑の物語へ、新しい大量死の映像やニュースが取り込まれていく。

なぜ動物の大量死は、このような陰謀論の材料になりやすいのだろうか。

牛、鶏、鳥インフルエンザ――ビル・ゲイツをめぐって繰り返される陰謀論

2022年6月、米カンザス州で多数の牛が死亡すると、その映像がSNSで急速に拡散した。現地の獣医師や州当局は、急激な高温と湿度による熱ストレスを主因として説明していたが、ネット上では「何者かが牛を殺した」「意図的に食料不足を起こそうとしている」といった説が現れた。

その中で名前を挙げられたのがビル・ゲイツだった。保守系コメンテーターのチャド・プラザーは、牛が暑さだけで大量死することに疑問を示し、ゲイツが米国最大級の農地所有者であることを理由に「答えを知っているのではないか」と示唆した。しかし、ゲイツとカンザスの牛死亡を結びつける証拠はなく、「大規模な農地所有者である」という事実と「牛の大量死に関与した」という主張の間には根拠のない飛躍があった。

似た物語は翌年にも現れた。2023年には、多数の牛が倒れている映像が「米国政府が牛へmRNAワクチンを接種した翌日に大量死した証拠」として拡散され、ビル・ゲイツやジョージ・ソロス、アンソニー・ファウチまで関係者として語られた。ところが元の映像は米国ではなく、2022年にイタリアで撮影されたものである。現地では約50頭の牛がソルガムを食べたことによる青酸中毒で死亡したと報じられており、ワクチンとの関係はなかった。

2022~23年に米国で鳥インフルエンザによる大量殺処分と卵価格の高騰が起きた際にも、「ゲイツが植物由来の代替卵へ投資した後に本物の卵が不足した」という説が広がった。さらに2024年にH5N1型鳥インフルエンザが乳牛へ拡大すると、ゲイツ財団が過去にインフルエンザ研究へ助成していたことを根拠に、「ゲイツが次のパンデミックを作っている」「食料供給を破壊してワクチン市場を作ろうとしている」という主張まで現れた。

これらの説に共通するのは、完全な作り話だけで構成されているわけではない点である。ゲイツが米国で多くの農地を所有していること、代替食品企業へ投資してきたこと、ゲイツ財団が感染症研究やワクチン開発へ資金を提供してきたことは事実である。ただし、それらの事実から「だから家畜を殺した」「感染症を意図的に起こした」という結論は導けない。

陰謀論では、本当の事実同士の間に、証明されていない因果関係が挿入されるのである。

なぜ「ビル・ゲイツ」が何度も登場するのか

では、なぜ数多くの富豪や財団関係者の中でも、ビル・ゲイツが家畜や感染症をめぐる陰謀論に繰り返し登場するのだろうか。

その背景には、彼の実際の活動領域の広さがある。ゲイツ財団は長年にわたり感染症対策やワクチン開発へ巨額の資金を提供してきた。ゲイツ本人も2015年のTED講演で、世界規模の感染症への備えが不十分だと警告していた。さらに農地を大規模に所有し、植物由来肉をはじめとする新しい食品技術への投資でも知られている。

これらを別々に見れば、感染症対策、投資、農業という異なる活動である。しかし陰謀論では、それらが一つの物語として再構成される。「パンデミックを予告した」「ワクチン研究へ資金を出した」「農地を所有している」「代替肉へ投資している」という事実を並べ、その間を「だから感染症を起こした」「家畜を減らそうとしている」という推測でつなぐのである。

研究でも、ゲイツがさまざまな陰謀論を接続する象徴的な存在になっていることが指摘されている。2020年のTwitter上でビル・ゲイツに関する陰謀論を分析した研究では、ワクチン、人口削減、監視、製薬企業など複数のテーマが互いに結びつきながら拡散していた。別の研究では、ゲイツのような人物が、状況に応じて異なる意味を与えられる「浮動する記号」のような役割を果たすことも論じられている。

一度「世界的エリート」「ワクチン」「食料」「農地」といった物語の中心人物として認識されると、新しい感染症や家畜の大量死が起こるたびに、ゲイツを既存の物語へ追加することが容易になる。事件ごとにゼロから陰謀論が作られるのではなく、すでに出来上がった物語へ新しいニュースが継ぎ足されていくのである。

5G、原発処理水、洋上風力――大量死は既存の不安へ吸収される

同じ構造は、ビル・ゲイツとは無関係な大量死でも見られる。

2018年、オランダ・ハーグで約300羽のホシムクドリが相次いで死ぬと、「近くで5G通信の実験が行われ、その電波で鳥が死んだ」という情報が広まった。オランダ政府は、その場所では5G試験自体が行われていなかったと説明したが、「5Gが鳥を殺した」という物語は英語圏にも広がった。2021年には、船の甲板で大量の鳥が死んでいる別の映像にも「船が5Gを作動させたためだ」という説明が付けられた。

日本でも、2023年12月に北海道函館市の海岸へイワシやサバなどが大量に打ち上げられると、中国語圏のSNSを中心に「福島第一原発の処理水が原因ではないか」という説が拡散した。処理水放出と魚の大量漂着を結びつける証拠は確認されなかったが、すでに存在していた原発への不安と、目の前の大量死の映像が容易に結びついた。

米国東海岸で2022年末以降にクジラの死骸が相次いで漂着した際には、「洋上風力発電の海底調査による音波がクジラを殺した」という説が広がった。米海洋大気局は両者を結びつける科学的証拠はないとしているが、この主張は洋上風力反対運動と結びつき、クジラの死が政治的な象徴として利用されるようになった。

これらの例では、「鳥が死んだから5G」「魚が死んだから処理水」「クジラが死んだから風力発電」という因果関係が、十分な証拠がそろう前に成立している。大量死が新しい陰謀論を生み出すというよりも、その時代にすでに存在している技術不安、環境不安、政治的不信へ吸収されているのである。

なぜ大量死は「誰かがやった」という物語になりやすいのか

動物の大量死が陰謀論へ結びつきやすい最大の理由は、その光景自体が強烈だからだろう。何百頭もの牛、何千羽もの鳥、海岸を埋め尽くす魚を見ると、「これほど大きな出来事には、それに見合う大きな原因があるはずだ」と考えたくなる。

心理学では、大きな出来事には大きな原因があるはずだと考える傾向が「比例性バイアス」と呼ばれることがある。社会的な影響が大きい事件ほど、偶然や単純な原因より、巨大な組織や意図的な計画を想定しやすくなるという研究もある。動物大量死についても、「高温」「病気」「魚群が浅瀬へ入り込んだ」といった説明より、「政府が実験した」「企業が毒をまいた」という説明の方が、視覚的な衝撃の大きさに釣り合っているように感じられる可能性がある。

もう一つ重要なのが、原因が確定するまでの時間差である。大量死が起きても、解剖、毒物検査、感染症検査、気象データの分析には時間がかかる。その間にも、映像はSNSを通じて世界中へ拡散する。科学的な説明が「まだ調査中」である段階でも、陰謀論には結果を待つ必要がない。「近くに5Gアンテナがある」「直前に処理水を放出した」「ゲイツ財団が研究費を出していた」といった二つの事実を並べ、その間に因果関係を置くだけで物語は成立する。

さらにSNSでは、一度できた物語が保存され、別の事件へ再利用される。ワクチンへの不信を持つ人には牛の大量死が「ワクチンの証拠」となり、5Gに不安を感じる人には鳥の大量死が「電波の危険性の証拠」となり、原発に不信を持つ人には魚の漂着が「処理水の影響」として理解される。

そのため、個々の投稿を訂正するだけでは陰謀論が消えにくい。イタリアの牛映像がワクチンとは無関係だと分かっても、別の牛の映像が使われる。ある鳥の死亡が5Gと無関係だと判明しても、次の大量死が新たな「証拠」として提示される。

動物の大量死は、陰謀論そのものを生み出す原因というより、人々がすでに抱えている不信や恐怖を投影しやすい出来事なのだろう。死骸という強烈な映像、原因が確定するまでの空白、そしてSNS上に蓄積された「ワクチン」「5G」「食料支配」「政府の隠蔽」といった物語。この三つが重なることで、無関係な出来事が一つの巨大な陰謀の証拠として再解釈されていくのである。

出典

Ciara O’Rourke — How now downed cows? Cattle in video died from poisoning in Italy, not COVID-19 shots in U.S.
PolitiFact, 2023
https://www.politifact.com/factchecks/2023/jun/12/viral-image/how-now-downed-cows-cattle-in-video-died-from-pois/

Madison Czopek — No, the Gates Foundation didn’t fund research to make the ‘bird flu transmissible to humans’
PolitiFact, 2024
https://www.politifact.com/factchecks/2024/jun/28/instagram-posts/no-the-gates-foundation-didnt-fund-research-to-mak/

Full Fact — Bill Gates is not planning to attack food supplies to create a market for bird flu vaccine
Full Fact, 2024
https://fullfact.org/online/bill-gates-food-supply-bird-flu-vaccine/

Ciara O’Rourke — The Bill Gates egg shortage conspiracy isn’t all it’s cracked up to be
PolitiFact, 2023
https://www.politifact.com/factchecks/2023/jan/25/instagram-posts/the-bill-gates-egg-shortage-conspiracy-isnt-all-it/

Antennebureau — Geen 5G-testen bij Huijgenspark in Den Haag
オランダ・アンテナ局, 2018
https://www.antennebureau.nl/actueel/nieuws/2018/november/14/geen-5g-testen-bij-huygenspark-in-den-haag

Full Fact — No evidence birds found dead on ship were killed by 5G
Full Fact, 2021
https://fullfact.org/online/no-evidence-birds-found-dead-ship-were-killed-5g/

日本ファクトチェックセンター — 魚の大量死は福島第一原発の処理水の影響?
日本ファクトチェックセンター, 2023
https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/nuclear/misinformation-fish-mass-deaths-not-linked-to-fukushima-plant-chinese-posts/

NOAA Fisheries — Frequent Questions: Offshore Wind and Whales
米国海洋大気局
https://www.fisheries.noaa.gov/new-england-mid-atlantic/marine-life-distress/frequent-questions-offshore-wind-and-whales

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Cyberpsychology, Behavior, and Social Networking, 2023
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36897292/

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https://www.nature.com/articles/s41598-023-36230-0

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