2022年5月、タイ東北部チャイヤプーム県の森に造られた共同体へ、警察や行政職員が踏み込んだ。そこでは約30人が暮らし、長い白髪と髭を伸ばした老人を「プラ・ビダー」、つまり「父なる者」と呼んで崇拝していた。信者たちは彼の尿や痰、皮膚の垢などに病気を治す力があると信じ、実際に飲んだり、身体へ塗ったりしていた。
だが、当局をさらに驚かせたのは、その共同体に11体もの遺体が保管されていたことだった。小屋の中には棺が並び、その一つには教祖自身の母親も納められていた。共同体の中心にいた男の名はタウィー・ナンラー。当時74~75歳と報じられた彼を中心とする集団は、タイのメディアから「父なる者の教団」と呼ばれ、一躍全国的なニュースになった。
元僧侶から「すべての宗教の父」へ
タウィー・ナンラーは、タイ東北部コンケン県ノーンルア郡の出身だった。現地報道によれば、若いころに故郷を離れてバンコクで働いた後に出家し、チャイヤプーム県プーキアオ郡の寺院で僧侶として暮らした時期があった。その後、僧籍を離れ、長い白髪と髭を伸ばした修行者のような姿で活動するようになった。信者からは「ジョセフ」や「仙人ジョセフ」と呼ばれることもあった。
活動の開始時期については現地報道に差があるが、少なくとも2022年に突然現れた人物ではない。以前から病気に悩む人や、「黒魔術をかけられた」と考える人々の相談を受け、薬草を発酵させた液体などを使った民間療法を行っていたとされる。やがて彼のもとへ通う人が増え、病気だけでなく、運勢や霊的な問題についても相談を受けるようになった。
そうした活動の中で、タウィーは単なる民間療法家や霊能者ではなく、特別な宗教的存在として扱われるようになった。信者たちは彼を「プラ・ビダー」、つまり「父なる者」と呼び、ときには「すべての宗教の父」「すべての預言者の父」といった意味で受け止めていたと報じられている。タウィー本人は摘発時、「自分が神だと教えたのではなく、信者がそのように信じている」と説明していた。
この共同体は、一般的な寺院のような場所ではなかった。公有地とされた森の中に多数の小屋が建てられ、信者たちはそこで寝泊まりし、働き、治療を受けていた。後の行政調査では、約4~7ヘクタールの土地に22棟ほどの小屋があり、約30人が暮らしていたと報じられている。単発の祈祷や相談を受ける施設というより、タウィーを中心に日常生活そのものが組み立てられた小規模な宗教共同体に近い姿だった。
尿も痰も垢も「父の薬」だった
この共同体を最も有名にしたのが、タウィーの身体から出るものを薬として扱う信仰だった。信者たちは彼の尿を飲んだり、顔や身体を洗ったりし、痰や唾液、皮膚から落ちた垢まで治療に利用していた。現地報道では、糞便を用いたという証言まで伝えられている。
2022年5月8日に当局が施設へ立ち入った際、一部の信者は行政職員らの前でも、タウィーの尿を飲んだり、腕から取った垢を口にしたりしたと報じられた。外部の人間に見つかったから慌てて隠すような行為ではなく、本人たちはそれを治療として受け入れ、むしろ効果を信じていたのである。
その信仰の強さを示すのが、摘発後もタウィーを支え続けた女性信者の証言だった。彼女は現地メディアの取材に、自分は以前がんを患っていたが、「父なる者」の身体から出たものを摂取して回復したため信じるようになったと語っている。こうした体験談が医学的な治療効果を示すものではないとしても、本人にとって「実際に病気がよくなった」という経験は、タウィーへの信頼を決定的なものにした。
チャイヤプーム県の公衆衛生当局は、尿や痰、皮膚の垢などを摂取する行為について、感染症の危険があり、場合によっては敗血症などにつながるとして警告した。しかし共同体の内部では、公的医療よりもタウィー自身の身体から出るもののほうが価値のある「薬」とみなされていた。
娘の訴えから明るみに出た森の共同体と11体の遺体
この集団が全国的に知られるきっかけを作ったのは、信者本人ではなく、その家族だった。コンケン県に住む53歳の女性ジェンジラーは、80歳の母親ノーイがタウィーの施設へ入ったまま、長期間家へ戻らなくなったことを心配していた。母親は高血圧などを抱えており、娘は病院で治療を受けさせたかったが、本人は共同体に残ることを望んでいたという。
ジェンジラーは、霊能者や宗教家による詐欺的な行為をテレビやSNSで告発していたジラパン・ペットカオ、通称「モー・プラー」に助けを求めた。モー・プラーは2022年5月8日、チャイヤプーム県知事や警察、行政、公衆衛生関係者らとともに施設へ入った。
そこで見つかったのが、タウィーを囲んで暮らす約30人の信者と、各所に置かれていた棺だった。大きな小屋には5つの棺があり、さらに周辺を調べると6つが見つかった。合計11体の遺体が施設内に保管され、その中にはタウィーの母親も含まれていた。
信者たちは、死者をタウィーのもとに置いておけば、天国へ導いてもらえると考えていた。遺体は防腐処理されておらず、袋に包んで棺へ納められていたという。ある信者は取材に、腐敗が進むと体液が出るため、棺の底から液体を排出できるようにしていたと説明している。
11人全員が施設で死亡したわけではなかった。病気の治療を求めて共同体へ入り、その後に亡くなった人がいる一方、自宅など別の場所で死亡した後、遺族が宗教的な理由から遺体を施設へ運び込んだケースもあった。行政へ火葬すると届け出ながら、実際には火葬せず施設に置き続けていた遺体もあり、当局は死因や遺体の管理状況を調べるため、法医学的な検査を進めた。
捜索時、信者たちはタウィーを簡単には引き渡そうとしなかった。警察が彼を連行しようとすると周囲を取り囲んで抗議し、警察車両を追いかける者までいた。彼らの多くは監禁されていたのではなく、自らの意思で共同体に住み、タウィーを信じていた。外部から施設を閉鎖しても、信仰そのものは簡単には消えなかった。
発酵食品、違法な木材、野生動物――捜査で広がった問題
共同体の実態を調べるにつれ、問題は宗教や民間療法だけではなくなっていった。敷地内では、信者たちが発酵食品や魚の加工品、菓子などを製造し、外部の商店へ販売していた。なかでも「セープラーイ」というブランドの発酵魚を使った調味食品は、周辺地域の複数の店舗で売られており、摘発後には行政当局が回収を進めた。
食品の製造環境には衛生上の問題があり、必要な許可や表示にも不備があった。タイ食品医薬品局は、この共同体で製造された商品を食べないよう消費者に呼びかけ、当局は食品関係の法令違反についても調査を進めた。
さらに、敷地内からは規制対象となる木材や野生動物の死骸なども発見された。森林関連法や野生動物保護に関する容疑も加わり、事件は、公有地の占有、無資格の治療行為、遺体管理、食品衛生、森林・野生動物法制など、複数の問題が絡み合うものになっていった。
タウィーは摘発後、公有地への侵入や医療行為、遺体の管理、当時の新型コロナウイルス対策に関する規制違反などの疑いで警察の取り調べを受け、裁判所へ送られた。その後、保証金を納めて一時釈放されたが、元の施設は行政によって閉鎖され、残っていた信者も退去することになった。
それでもタウィーの周囲から信者が完全に消えたわけではない。釈放後、彼は別の県境近くにある農園で信者たちとともに生活しているところを確認されている。その場所を提供したのも弟子の一人だった。摘発後も「自分は病気を治してもらった」「他人が信じなくても構わない」と語る信者がおり、外部から見れば異様に映る習慣も、共同体の内部では簡単に否定できない経験として残っていた。
なぜ尿や遺体まで受け入れられたのか
タウィーの共同体を、単に「排泄物を食べる奇妙なカルト」として眺めるだけでは、この事件の一部しか見えない。信者たちは突然、尿や痰を薬だと思い始めたわけではなかった。病気や人生の悩みを抱えた人がタウィーのもとを訪れ、本人が「治った」と感じる経験をし、それを周囲に語り、同じ信念を持つ人々が集まっていった。その中でタウィーは、相談相手から治療者へ、治療者から特別な霊的存在へと変わっていった。
共同生活も、その信仰を強める役割を果たしたと考えられる。施設では寝食だけでなく、治療、仕事、信仰、死者の扱いまでタウィーを中心に組み立てられていた。通常なら強い抵抗を感じる尿や痰の摂取も、周囲の全員が同じものを「薬」と呼び、それによって病気が治ったという話を繰り返し聞く環境では、しだいに特別な意味を持つようになる。
11体の遺体も同じだった。外部から見れば、腐敗する遺体を小屋に置き続ける行為は異常に映る。しかし信者たちにとっては、死者をタウィーの近くに置くことが天国へ向かうための行為だった。病気、治療、死、そして死後の世界までを一人の人物が説明するようになったとき、その人物の権威は生活の一部分ではなく、世界そのものを理解するための基準になる。
森の共同体が明るみに出たとき、多くのタイ人が驚いたのは、尿を飲むという行為そのものだけではなかった。そこには、それを当然のこととして受け入れ、摘発後もなお「父なる者」を信じ続ける人々が実際に暮らしていたのである。
出典
Thai PBS — ชาวบ้านขับไล่ลัทธิประหลาด-เร่งสอบ 11 ศพปริศนา
Thai PBS, 2022
https://www.thaipbs.or.th/news/content/315342Thai PBS — บุกจับอ้างสำนักฤาษีชัยภูมิ ซุก 11 ศพปริศนา-รักษาโรคประหลาด
Thai PBS, 2022
https://www.thaipbs.or.th/news/content/315307Thai PBS — ลูกศิษย์เก็บของกลับบ้าน เจ้าสำนักล่องหนหลังได้ประกันตัว
Thai PBS, 2022
https://www.thaipbs.or.th/news/content/315356Thai PBS — แจ้ง 2 ข้อหาเจ้าสำนักประหลาดครอบครอง “ไม้พะยูง-ซากเลียงผา”
Thai PBS, 2022
https://www.thaipbs.or.th/news/content/315420Thairath — “หมอปลา” บุกสำนักประหลาด ให้กินฉี่ ขี้ไคล อ้างรักษาโรค แถมเจอ 11 ศพคนตาย
Thairath, 2022
https://www.thairath.co.th/news/local/northeast/2387437Thairath — สสจ.ชัยภูมิ เตือนรักษากับลัทธิประหลาด เสี่ยงติดเชื้อเข้ากระแสเลือดเสียชีวิต
Thairath, 2022
https://www.thairath.co.th/news/local/2388110Thairath — อนุญาตปล่อยชั่วคราว ลัทธิเพี้ยน! ตร.แจ้ง 4 ข้อหา แฉประวัติเคยบวช สึกออกมาห่มฤาษี
Thairath, 2022
https://www.thairath.co.th/news/society/2388331Thairath — ตามเก็บ ปลาร้าบองแซ่บหลาย ผลิตจากสำนัก “พระบิดา” ใช้เป็นวัตถุพยาน
Thairath, 2022
https://www.thairath.co.th/news/local/northeast/2390680Matichon — ผู้ว่าฯสั่งอายัด 11 ศพ ในสำนักพระบิดา ไปชันสูตร
Matichon, 2022
https://www.matichon.co.th/region/news_3333294Matichon — อย่าบริโภคผลิตภัณฑ์ปลาร้าพระบิดา อย.ชี้เสี่ยงได้รับอันตราย
Matichon, 2022
https://www.matichon.co.th/local/quality-life/news_3343800Manager Online — ลูกศิษย์ให้ที่พักแก่ “พระบิดา” ยันกินของเสียจากพระบิดาจนหายจากมะเร็ง
Manager Online, 2022
https://mgronline.com/local/detail/9650000045258The Nation — Cult leader whose followers ate his excreta arrested in Chaiyaphum
The Nation, 2022
https://www.nationthailand.com/in-focus/40015387




