ドバイを訪れたモデルやインフルエンサーが、富豪から大金を受け取る代わりに、排泄物や暴力を使った異常な性行為に応じている――。日本で「ドバイ案件」と呼ばれる噂は、海外では「ドバイ・ポルタ・ポッティ(Dubai Porta Potty)」という名前で広まった。「ポルタ・ポッティ」とは英語で仮設トイレを意味し、女性を「人間のトイレ」のように扱うという噂に由来する。
この話には、SNSで作られたデマや誇張も多い。だが2025年、BBCがドバイの売春ネットワークを長期取材し、排泄、放尿、殴打などを金で求められた女性たちの証言を報じた。また、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)とロイターの調査では、ドバイへ送られた女性が売春を拒んだり、十分な金を稼げなかったりした際に、殴打や性的暴行、唐辛子を使った虐待を受けていたことまで明らかになっている。ネットの都市伝説と実際の犯罪は同じものではないが、その境界をたどると、「ドバイ案件」の異様な部分の一部は現実にも存在していた。
「排泄物を食べる」「ラクダと性行為」――ネットで広がった過激な噂
ドバイの富豪がモデルに大金を払い、排泄物を使った性的行為をさせるという噂は、少なくとも2015年ごろから4chanなどで流れていた。2022年には、男性が女性の口へ排便する性的動画が「ドバイの富豪とインフルエンサーを撮影したもの」として拡散し、「ドバイ・ポルタ・ポッティ」という言葉がTikTokやXで急速に広がった。ネット文化を記録する「ノウ・ユア・ミーム」によれば、この言葉は「大金と引き換えにドバイの富豪から排便される女性」という意味で使われるようになった。
噂の内容はさらに過激になり、顔や身体に排便される、排泄物を食べさせられる、尿を飲まされる、大勢の男性を同時に相手にする、殴打や首を絞める行為を受ける、その様子を撮影される、といった話が並ぶようになった。さらに、ラクダなどの動物との性行為まで要求されるという説も加わった。こうした話の一部は、2015年から活動していた「タグ・ザ・スポンサー(TagTheSponsor)」という暴露サイトから広まったとみられる。このサイトの運営者はアラブの富豪を装ってインスタグラムのモデルへ連絡し、数千~数万ドルの報酬を提示して、集団での性行為、排泄物を使う行為など、どこまで過激な条件を受け入れるのかを試し、そのやり取りをネット上に公開していた。
当時の掲示板には、「3万ユーロでラクダを使った性的行為に応じるとモデルが答えた」とするタグ・ザ・スポンサーの記事が転載されている。別の記事には、ラクダを含む性的フェティッシュを条件として提示したやり取りへのリンクも残っている。ただし、タグ・ザ・スポンサー自体が偽の富豪を使った「釣り」であり、女性がメッセージ上で条件を受け入れたことと、実際にドバイで行為が行われたことは別である。現在までのBBCやICIJなどの調査でも、獣姦について実行まで裏付けられた事例は見つかっていない。獣姦は「ドバイ案件」の都市伝説を形成した古い要素であり、実際の被害者証言が複数得られている排泄や暴力とは証拠の強さが異なる。
一方、排泄物や放尿を使った行為については、単なるネットの噂とは言い切れなくなった。2025年にBBCが公開した調査では、ドバイで性産業に関わった複数の女性が、ネット上で長年語られてきたものとよく似た要求を実際に客から受けていたと証言したからである。
排便、放尿、殴打――BBCが取材した異様な性的要求
BBC Eyeが追跡したのは、ドバイで「アビー」と名乗っていたウガンダ出身のチャールズ・ムウェシグワだった。BBCによれば、ムウェシグワは女性を富裕層の客へ紹介するネットワークを運営しており、記者がパーティー主催者を装って接触すると、「25人ほどの女性がいる」と説明した。料金は女性一人につき一晩1000ドル程度からで、普通ではない要求なら料金が上がるといい、「ポルタ・ポッティ」のような依頼について尋ねられると、特に過激な要求に応じられる女性も紹介できると答えた。
BBCが「ミア」という仮名で取材した女性によれば、客の中には女性の身体に排便し、その排泄物を食べるよう命じる男性がいた。女性の身体へ排泄物をかけるだけではなく、口に入れるところまでを性行為の一部として要求していたという。ネットで「ポルタ・ポッティ=人間のトイレ」と呼ばれてきた話にかなり近い内容だった。
別の女性「レクシー」は、他の人身取引ネットワークによってドバイへ連れて来られたと証言している。彼女によれば、排泄物や尿を使う要求は珍しいものではなく、ある客からは1万5000UAEディルハムを払う代わりに、複数の男性から性的暴行を受け、顔に放尿され、殴られるという内容を提示された。さらに5000ディルハムを追加する条件として、その状態で排泄物を食べる姿を撮影させることまで要求された。合計すると2万ディルハム、当時の換算で5000ドルを超える金額だった。
ここで売買されていたのは、単に珍しい性行為ではなかった。レクシーは、自分が拒否すればするほど客の興味が強くなり、泣き、叫び、逃げようとする女性を求める客がいたと証言している。BBCは、こうした要求には人種差別的な要素もあり、黒人女性を対象に、屈辱や暴力そのものを性的刺激として求める客がいたと報じた。女性への排泄、放尿、殴打、複数人による性的行為、嫌がる様子の撮影が一つの「商品」として組み合わされ、その過激さによって料金が上乗せされていたことになる。
BBCがこの問題を調べるきっかけとなったのは、「モナ・キズ(Mona Kizz)」の名で知られたウガンダ人女性モニック・カルンギの死だった。カルンギは2022年、ドバイの高層住宅から転落して死亡し、SNSでは「ポルタ・ポッティの性的動画が流出したことを苦に自殺した」とする話が世界中へ広がった。しかし、彼女が映っているとされた転落動画や性的動画は別人のもので、この部分はデマだった。皮肉にも、そのデマを追跡したBBCが別の女性たちへ取材した結果、ネット上の噂とよく似た排泄や放尿を伴う要求が実際に存在していたことが浮かび上がった。
稼げなければ殴られる――唐辛子まで使われた人身取引網
女性に対する暴力は、客の性的要求だけではなかった。ICIJとロイターが2023年に調査したナイジェリア人女性の人身取引ネットワークでは、売春を拒んだ女性や十分な金を稼げなかった女性に、組織側が日常的に暴力を加えていた。この調査では被害女性への取材に加え、ナイジェリアの人身取引対策当局者や裁判資料なども使われている。
中心人物とされたのは、「クリスティ・ゴールド(Christy Gold)」の名で活動していたクリスティアナ・ジェイコブ・ウアディアレである。女性たちはナイジェリアで、美容師、販売員、レストラン従業員などの仕事があると勧誘され、旅券、航空券、観光ビザまで手配されてドバイへ渡った。しかし到着すると、渡航費などとして多額の借金があると告げられ、その返済のために売春するよう迫られた。女性たちはバーやホテル、ナイトクラブなどへ送り出され、十分な金を持ち帰れないと罰を受けた。
その罰はかなり激しいものだった。複数の女性とナイジェリア当局者によれば、ドバイのアパートには女性を罰するための部屋があり、そこで食事を与えず衰弱させたうえで、殴打や鞭打ちが行われた。水たばこのホースやほうきの柄などで身体を打たれたという証言もあり、クリスティ・ゴールドの弟ソロモンから性的暴行を受けたとする女性もいた。最大18人ほどの女性が二寝室のアパートに押し込められ、多くは床に毛布を敷いて寝ていたという。
さらに異様なのが、唐辛子を使った虐待である。被害女性の一人は、稼ぎが足りないと殴られ、唐辛子を膣や目に入れられたと証言した。ICIJによれば、複数の被害者と当局者が、熱い唐辛子のペーストを女性の性器に押し込む罰について証言している。身体に傷を負った女性もいたが、病院へ連れて行けば虐待が発覚するため、治療を受けさせてもらえなかったという。女性の一人は、金を持ち帰れないたびに殴られ、「苦しみがあまりにも大きかった」と語っている。
暴力に加えて殺害の脅迫も使われた。三人の女性は、言うことを聞かなければ殺して砂漠に遺体を捨てるとクリスティ・ゴールドから脅されたと証言している。さらに、逃げれば本人や家族に災いが起きると思わせる宗教的・呪術的な誓約も利用されたという。借金、旅券の取り上げ、監禁、暴力、性的暴行、唐辛子を使った拷問、殺害の脅迫を組み合わせ、女性が逃げにくい状態を作っていた。
ウアディアレは人身取引への関与を否定したが、ナイジェリアで人身取引6件について有罪判決を受け、2024年末に帰国した際に逮捕された。裁判の細かな経緯以上に、この事件では、ドバイへ女性を送り込んで売春させ、従わない女性に激しい暴力を加える仕組みが、複数の被害者証言、当局資料、裁判記録によって追跡されている点が大きい。
全身を骨折したマリア・コヴァルチュク
2025年3月には、20歳のウクライナ人モデル、マリア・コヴァルチュクがドバイで行方不明になり、約一週間後、路上付近で重傷を負った状態で発見された。脊椎や手足などに深刻な骨折があり、複数回の手術が必要になった。事件後、ウクライナ国家警察は人身取引に関する刑事事件として捜査を開始した。
回復したコヴァルチュクは同年7月、ホテルで知り合った男性たちと過ごしていたところ、途中から彼らが攻撃的になり、部屋から出られないようにされ、「お前は俺たちのものだ」という趣旨の言葉を浴びせられたと証言した。彼女はホテルから逃げ出したものの追いかけられ、再び捕まった後に暴行を受けたと話している。その後の記憶には空白があり、重大な骨折が殴打によるものなのか、高所から転落したためなのかについては本人も分からないとしている。
一方、ドバイ側では建設現場から転落したという説明が報じられ、SNSでは事件直後から「富豪のポルタ・ポッティ・パーティーで拷問された」「獣姦を強要された」など、さらに過激な話が大量に付け加えられた。こうした部分まで裏付けられたわけではないため、コヴァルチュク事件そのものをポルタ・ポッティの実例とすることはできない。ただ、若い外国人モデルが富裕層の男性たちとの私的な集まりに参加した後、性的要求を受けたと訴え、最終的に全身に重大な負傷を負って発見された事件として、「ドバイ案件」をめぐる議論と結びつくことになった。
「大金目当てのモデル」だけでは説明できない
ネット上の「ドバイ案件」は、派手な生活をしたいインフルエンサーが、高額報酬と引き換えに富豪の異常な性癖へ自分から応じるという話として広まった。タグ・ザ・スポンサーが公開したやり取りも、このイメージを強めた。しかしBBCやICIJが実際の女性たちを取材すると、そこには別の世界が広がっていた。普通の仕事を紹介すると騙されて渡航し、到着後に多額の借金を背負わされ、売春を断れば監禁や暴行を受ける女性がいたのである。
さらに客側からも、身体への排便、排泄物を食べる行為、顔への放尿、複数人による性的行為、殴打、それらを嫌がる姿の撮影といった要求が持ち込まれていた。十分な金を稼げなければ、今度は仲介する組織から殴られ、飢えさせられ、性器や目に唐辛子を入れられる。ネットでは「数時間我慢すれば大金を得られる奇妙なアルバイト」のように語られることもあるが、実際に取材された事例には、自由な契約とはかけ離れた状況に置かれた女性が含まれていた。
もちろん、「ドバイ案件」としてネットに流れる話をすべて事実として扱うことはできない。獣姦のように古くから繰り返されながら、実行まで裏付けられていない話もある。モニック・カルンギのように、無関係の動画から物語そのものが作られた例もある。この点を押さえれば、記事の途中で何度も「確認されていない」と繰り返す必要はない。
その一方で、排泄物を食べるよう求められた女性、放尿されながら殴られる行為を金で提示された女性、売春を拒んで暴行された女性、性器や目に唐辛子を入れられた女性については、BBCやICIJなどが本人や関係者を取材している。「ドバイの富豪がインフルエンサーに大金を払い、想像を絶することをさせる」という都市伝説は、そのままの形で証明されたわけではない。しかし噂を掘り下げた先には、極端な性的要求と、外国人女性をそこへ送り込む人身取引ネットワークが実際に存在していたのである。
出典
Runako Celina — Boss of degrading sex-trade ring in Dubai’s glamour districts unmasked by BBC
BBC Eye Investigations, 2025
https://www.bbc.com/news/articles/cx2r9y3kxy9oBBC World Service — Death in Dubai: #DubaiPortaPotty
BBC Eye / World of Secrets, 2026
https://wspartners.bbc.com/episode/n12t256jgMaggie Michael — How torture, deception and inaction underpin the UAE’s thriving sex trafficking industry
International Consortium of Investigative Journalists / Reuters, 2023
https://www.icij.org/investigations/trafficking-inc/how-torture-deception-and-inaction-underpin-the-uaes-thriving-sex-trafficking-industry/Carmen Molina Acosta — Nigeria arrests human trafficker spotlit by ICIJ
International Consortium of Investigative Journalists, 2025
https://www.icij.org/investigations/trafficking-inc/nigeria-arrests-human-trafficker-spotlit-by-icij/BBC News Україна — Марія Ковальчук. В Україні відкрили кримінальну справу через травмовану 20-річну українку в Дубаї
BBC News Україна, 2025
https://bbcinsight.pages.dev/ukrainian/articles/c2414y7p436oUNN — Ukrainian model Maria Kovalchuk stated that she was beaten in Dubai by Russian socialites and the son of a Donetsk businessman
Ukrainian National News, 2025
https://unn.ua/en/news/ukrainian-model-maria-kovalchuk-stated-that-she-was-beaten-in-dubai-by-russian-majors-privileged-youth-and-the-son-of-a-donetsk-businessmanAdam — Dubai Porta Potty
Know Your Meme, 2022
https://knowyourmeme.com/sensitive/memes/dubai-porta-pottyJack Baruth — The Guilty, Hypocritical Pleasure Of “Tag The Sponsor”
Riverside Green, 2015
https://jackbaruth.com/p-3945.htmlGetbig Forums — Trolling instagram models – one agrees to f* a camel in Dubai**
Getbig, 2016
https://www.getbig.com/boards/index.php?topic=616861.0




