米ニュージャージー州オレンジの集合住宅を拠点に活動していた小さな教会「聖霊による主イエス教会(Jesus Is Lord by the Holy Ghost)」。その指導者トレヴァ・エドワーズは、自分を神と直接話すことのできる「預言者」だと信者に説き、食事や睡眠、仕事、交友関係まで細かく管理したうえで、少なくとも二人の女性信者に長年にわたって性的行為を強要したとして、米連邦検察に起訴されている。
2026年5月に提出された新たな起訴状では、一人の女性信者に繰り返し性的暴行を加え、妊娠させた後には中絶するよう指示したとされている。別の女性信者には、自分との性行為は「神の意思」であり、それに従えば精神を病まずに済むという趣旨の説明をしていたと検察は主張している。この事件で特徴的なのは、性的暴力だけが単独で行われたわけではないとされる点だ。住む場所、食事、睡眠、仕事、お金、家族との付き合い、医療、そして宗教的な救いまで、一人の指導者への服従と結びつけられていたという。性行為の強要も、その支配の一部として行われていたと検察はみている。
「神の声を聞ける預言者」――生活に困った人を取り込んだ教会
トレヴァ・エドワーズと妻クリスティーンは、ニュージャージー州オレンジの集合住宅で聖霊による主イエス教会を運営していた。2025年に最初の起訴が行われ、翌2026年には新たな容疑が追加された。トレヴァは、暴力や脅しなどを使った性的人身取引や強制労働などの罪に問われ、妻のクリスティーンも強制労働に関する共謀罪で起訴されている。
検察によれば、夫妻は経済的な問題や家族関係の悩みを抱え、生活が不安定になっていた人々を教会へ迎え入れていた。薬物依存や過去の性的被害を抱えていた人もいたとされ、少なくとも六人の信者が無給で働かされていたという。信者の中には、そのまま教会施設で生活するようになった人もいた。住む場所も仕事も人間関係も教会に頼るようになれば、そこから離れることは簡単ではない。教会を出れば、住居だけでなく、一緒に生活してきた仲間や信仰上の居場所まで一度に失うことになるからだ。
さらにトレヴァは、自分には神の言葉を直接聞く能力があると主張していたという。信者が自分に逆らえば、単に教会で叱られるのではなく、神から罰を受けると説いていたと検察は説明している。病気になる、精神を病む、刑務所に入る、自殺に追い込まれるといった不幸まで、指導者への不服従と結びつけられていたとされる。教会の外にいる人々も危険な存在として扱われ、家族や友人との連絡を監視され、教会外の人間は邪悪である、あるいは悪魔に取りつかれていると教えられたという。自由に外出することを制限された信者もいたと検察は主張している。
こうした環境では、外から見れば簡単に思える「嫌なら逃げればいい」という選択が難しくなる。教会を出れば生活の基盤を失ううえ、「神に逆らえば自分にも恐ろしいことが起こる」という恐怖まで加わっていたためだ。
一日一食、睡眠不足、無給労働――信者の暮らしを丸ごと支配
信者の日常生活も細かく管理されていたとされる。食事をする時間、眠る時間、祈る時間、働く時間まで決められ、夜遅くまで仕事や祈りを続けた後、早朝から数時間にわたる説教に参加させられることもあった。食事は一日の仕事を終えた後の一食だけだったと起訴状には記されている。
信者たちが行わされていたとされる仕事も、単なる教会の手伝いではなかった。住宅や商業施設の解体や清掃、雪かき、大型ごみの撤去、家具の運搬、汚水の清掃、ネズミの駆除など、夫妻が外部から請け負った仕事を信者にさせていたという。仕事の代金は信者には渡らず、夫妻側が受け取っていたと検察は主張している。
「罪を犯した」とされた信者に対しては、労働や食事を抜くことが罰として使われることもあった。2017年には、一人の信者が商業施設でごみを運ぶことで自分の罪を償うよう命じられたとされ、2019年には別の信者が「罪を犯した」として夕食を与えられなかったという。トレヴァは、天国へ行くために人間が避けるべきものとして、食べ物、睡眠、性、お金、快楽という「五つの愛」を説いていたともされる。信者には食事や睡眠を減らす生活を求めながら、検察によれば、本人はその宗教的な立場を利用して女性信者に性的行為を求めていたことになる。
医療を受けることまで信仰と結びつけられていた。トレヴァは信者に病院へ行かないよう勧め、自分との関係が良好であれば神が病気を治してくれるという趣旨の話をしていたとされる。教会を離れた人物が後に大きな心臓手術を受けると、トレヴァはそれを「教会を離れたために起きたこと」として信者に語り続けたという。残った信者に「自分も教会を離れれば同じ目に遭う」と思わせる効果があったと検察はみている。
約7年間の性的暴行と妊娠――そして「中絶しろ」という指示
性的被害について最初に詳しく明らかになったのは、教会で暮らしていた一人の女性信者のケースだった。検察によれば、トレヴァは2013年ごろから2020年ごろまで、この女性に繰り返し身体的、性的な暴力を加えていた。一度だけ起きた事件ではなく、およそ7年間にわたって被害が続いていたとされる。
その間、女性はトレヴァとの性的行為によって妊娠し、その後トレヴァから中絶するよう指示されたという。起訴状では、中絶が実際に行われたかどうかまでは詳しく記されていないが、妊娠後に中絶を求められたこと自体が、性的支配の深刻さを示す重要な要素として挙げられている。
この女性が教会を離れようとしたとみられる2019年末には、さらに異様な出来事があった。検察資料によれば、トレヴァと妻クリスティーンは教会員を集め、一人の女性が教会から離れるのを思いとどまらせるための集会を開いた。起訴状では、この集会を英語で「ストラグル・セッション」と表現している。もともとこの言葉は、集団の中で一人を批判したり、本人に自分の考えや行動を反省させたりする集会を指す。教会で具体的に何が語られたのかまでは公表されていないが、一人の信者が去ろうとした際、指導者だけでなく教会全体で引き止めようとしたと検察は主張している。
妻クリスティーンについては、性的暴行や性的人身取引の罪では起訴されていない。一方で、この女性を教会に残らせようとする集会に夫とともに関わったことや、信者の生活や労働を管理していたことが、強制労働に関する共謀の一部として問題視されている。
「私と性行為をすれば精神を病まない」――神の言葉を使った性的支配
事件の内容がさらに広がったのは2026年5月だった。追加の起訴によって、別の女性信者への性的被害が新たに明らかになった。検察によれば、トレヴァは2012年ごろから2019年12月ごろまで、この女性にも繰り返し身体的、性的な暴力を加えていた。こちらも約7年という長期間に及ぶ。
さらに、この女性を性的行為に従わせるために、トレヴァがどのような説明をしていたのかも明らかにされた。検察によれば、トレヴァは女性に対し、自分との性行為は「神の意思」であり、それによって精神を病まずに済むという趣旨の話をしていたという。身体的な力だけでなく、「拒否すれば精神を病むかもしれない」という恐怖を宗教的な説明と結びつけていたとされる。
普通の人間関係で「自分と性行為をしなければ病気になる」と言われても、多くの人は簡単には信じないだろう。しかし、この教会ではトレヴァ自身が「神の声を聞く預言者」とされ、彼に逆らえば神から罰を受けると日常的に教えられていたという。さらに、外部の人間は悪魔に取りつかれている、教会を離れれば病気になるといった話も重ねられていた。そうした生活を長期間続けるうちに、「指導者との性行為を拒めば本当に自分の精神がおかしくなる」という恐怖が強まっていったと考えれば、性行為の要求が単なる誘いではなく、宗教的な圧力を伴う命令として作用した構図が見えてくる。
こうした支配は、研究では「スピリチュアル・アビューズ」や「宗教を利用した強制的支配」と呼ばれることがある。これは、単に宗教指導者が犯罪を行うという意味ではない。神、地獄、罪、救済、悪魔、霊的な力といった信仰上の概念を使い、相手に「従わなければ恐ろしいことが起きる」と思わせることで行動を支配することを指す。英国の被害者を調べた研究でも、宗教的な教えが家庭内暴力や性的支配を正当化するために使われたケースが報告されている。被害者が「相手に逆らうこと」と「神に逆らうこと」を同じものとして考えるようになると、通常の脅迫とは異なる強い心理的圧力が生まれる。
この研究はトレヴァ・エドワーズの教会そのものを対象にしたものではないが、「預言者に逆らえば神罰を受ける」「性行為は神の意思である」という説明が、なぜ強い支配力を持ち得るのかを理解する手がかりになる。
なぜ逃げられなかったのか――住居も仕事も信仰も同じ人物が握る
二人の女性が実名で報道機関のインタビューを受け、長い体験談を語った記録は現在のところ広く公表されていない。そのため、約7年間にわたる生活の細部については、主に起訴状や検察側の資料を通じて明らかになっている。
そこから浮かび上がるのは、性的な要求だけを拒否すれば済む状況ではなかったということだ。信者は教会施設で暮らし、働いても自分には給料が入らず、食事や睡眠まで管理されていた。家族や友人との関係も制限され、外部の人間は邪悪だと教えられていた。そのうえで「教会を離れれば神から罰を受ける」「精神を病む」「病気になる」といった恐怖まで植え付けられていたとされる。
一人の女性については、教会を離れようとした際に、信者全員を集めて思いとどまらせる集会まで開かれた。住居、食事、仕事、人間関係、信仰、健康、死後の運命まで、生活のほぼすべてが同じ指導者への服従と結びついていたことになる。こうした環境そのものが、女性たちが性的要求を拒んだり、教会から離れたりすることを難しくしたと検察はみている。
トレヴァには性的暴行だけでなく、米連邦法上の「暴力・詐欺・強要による性的人身取引」の罪も適用されている。「性的人身取引」という言葉を聞くと、売春組織が女性を客に提供する事件を想像しやすいが、米国の法律ではもっと広い範囲が対象になる。暴力や脅迫、心理的な強要などによって、人を金銭などが関係する性的行為に従事させるため、勧誘したり、住居を提供したり、支配下に置いたりした行為も対象になり得る。
この事件では、住居、労働、宗教的な権威、性的関係が複雑に絡み合っていたとされ、検察はその全体を性的人身取引と強制労働の枠組みで訴追している。
逮捕後も「完全な服従」――支配は終わっていなかったのか
夫妻は2025年5月に逮捕され、いずれも無罪を主張している。弁護側はトレヴァには犯罪歴がなく暴力的な人物でもないと反論し、現在も彼を支持する教会員がいるとしている。
一方、検察は、逮捕後もトレヴァが教会への影響力を保とうとしていたと主張している。報道によれば、拘置所から信頼する信者を通じて組織へ影響を及ぼし、誰が捜査当局に情報を提供したのかを探ろうとする動きもあったとされる。また、2025年8月に録音された妻との電話では、この事件を乗り切るためには「完全な服従」が必要だという趣旨の発言をしたと検察は主張した。裁判官はトレヴァの保釈を認めなかった。
この事件が特に異様なのは、性的な要求だけが特殊だったからではない。食事、睡眠、仕事、住居、医療、友人や家族との関係、神からの救済、そして精神を病むことへの恐怖まで、一人の宗教指導者への服従と結びつけられていたとされる。その中で、一人の女性には妊娠に至る性的暴行が長期間続き、別の女性には「神の意思」「精神を病まないため」という説明を使って性的行為を求めていたという。
2026年10月現在、夫妻に対する刑事裁判は続いている。今後の公判では、長年にわたる共同生活の実態や、性的な要求がどのように始まり、信者たちがなぜそこから離れることが難しかったのかが、さらに詳しく明らかになるとみられる。
出典
U.S. Attorney’s Office, District of New Jersey — Superseding Indictment Returned for New Jersey Pastor and Self-Proclaimed Prophet Who Compelled Labor and Sex from Congregants
U.S. Department of Justice, 2026
https://www.justice.gov/usao-nj/pr/superseding-indictment-returned-new-jersey-pastor-and-self-proclaimed-prophet-whoUnited States District Court, District of New Jersey — United States v. Treva Edwards and Christine Edwards, Indictment
United States District Court for the District of New Jersey, 2025
https://www.justice.gov/usao-nj/media/1399921/dlAmanda Lee Myers — New Jersey ‘prophet’ controlled members through fear, sex: Indictment
USA TODAY, 2026
https://www.aol.com/articles/jersey-prophet-controlled-members-fear-000422000.htmlLeonardo Blair — ‘Prophet’ told congregant sex with him would protect her from mental illness, told another to get abortion
The Christian Post, 2026
https://www.christianpost.com/news/pastor-told-congregant-sex-with-him-would-protect-her-health.htmlNatasha Mulvihill, Nadia Aghtaie, Andrea Matolcsi, Marianne Hester — UK victim-survivor experiences of intimate partner spiritual abuse and religious coercive control and implications for practice
Criminology & Criminal Justice, 2023
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/17488958221112057United States House of Representatives — 18 U.S.C. §1591: Sex trafficking of children or by force, fraud, or coercion
United States Code
https://uscode.house.gov/view.xhtml?req=%28title%3A18+section%3A1591+edition%3Aprelim%29




