2026年、アメリカ・フィラデルフィアの一軒家をめぐる捜査から、すでに死亡していた老人の異様な人生が明らかになり始めた。男の名はレイモンド・チャールズ・ホーシュ。一般には「R・C・ホーシュ」と名乗り、ポルノ映画や写真を制作する一方、偽札製造、違法薬物の製造、偽名を使った海外逃亡などを繰り返していた。
晩年には、薬物依存状態にある女性たちを集め、拘束、首絞め、溺死、死体などを題材にした性的な作品を作っていた。本人は自分を「性に依存している」と語り、作品の一部は自分自身の性生活や女性との支配関係をもとにしたものだとも話している。そして現在、彼が暮らしていた家は7人の行方不明女性と結びつき、捜査当局はホーシュが実際に女性を殺害していた可能性まで調べている。
農場育ちの優等生からポルノ映画の世界へ
ホーシュは1943年、ペンシルベニア州に生まれ、イースト・ストラウズバーグの農場で育った。父親は第二次世界大戦中にグライダーの操縦士を務めた人物だった。一家は後にバックス郡チャルフォントへ移り、ホーシュは1961年に高校を卒業している。学校では雑誌の編集を担当し、全米規模の成績優秀者にも選ばれていた。後年、本人は若い頃の自分を「まったく性的ではないオタク」だったと振り返っている。
1964年、ホーシュは19歳だった高校時代からの恋人と結婚した。夫妻はフィラデルフィア中心部に移り、妻が公立学校の教師として働く一方、ホーシュは写真や映像関係の仕事を始めた。1960年代後半には「アンダーグラウンド・シネマ16」という映画館を運営し、前衛映画を上映していたほか、ニューヨークでは性的な写真作品も発表するようになった。
最初の結婚生活は長く続かなかった。元妻によると、ホーシュは家庭内で暴力を振るう人物ではなかったものの、浮気を繰り返し、精神的に相手を抑えつけるところがあったという。1970年、妻が自宅のベッドで別の女性の寝間着を発見し、夫妻は別れた。元妻は後年、ホーシュについて、自分は誰より頭がよく、何をしても逃げ切れると考えているような男だったと語っている。
1970年代初め、ホーシュは成人映画業界に入り、1973年には『男性優越主義者の豚のエロティックな回想録』(The Erotic Memoirs of a Male Chauvinist Pig)を監督した。制作資金を出したのは、フィラデルフィアの裏社会とも関係があったナイトクラブ経営者サルバトーレ・ラルッサで、作品には当時知られていたポルノ女優ジョージナ・スペルヴィンも出演した。
内容は一般的な成人映画とはかなり異なっていた。強姦、女性の拘束、未成年者を扱う性的な場面、薬物依存状態にある女性との暴力的な関係などが描かれていた。ホーシュは後年、この作品について冗談めかして話すこともあったが、性、支配、暴力、薬物といった題材は、その後の作品でも繰り返されることになる。
偽札、覚醒剤、国外逃亡と二度目の結婚
ポルノ映画監督として大きな成功を収める前に、ホーシュは本格的な犯罪へ手を染めた。1974年、米シークレットサービスが彼の偽札製造拠点を摘発し、大量の偽10ドル札が押収された。ホーシュはこの事件で服役したが、釈放後の1977年には、今度はメタンフェタミンを製造する設備を持っていたとして摘発された。
裁判を待つ間にホーシュは逃亡し、交際していたミロスラワ・アンナ・フェルクニアクと西海岸へ向かった。そこで実在する化学者スタンリー・ストコウスキー博士の身元を盗用し、その名前を使い始めた。1980年にはストコウスキー博士を名乗ったままアンナと結婚し、その後、夫妻でニュージーランドへ渡った。
ニュージーランドでは、ホーシュは博士号を持つ化学者になりすまして代替燃料会社に就職し、乳清からエタノール燃料を作る施設の立ち上げにも関わった。偽造した学歴や身分証が通用し、周囲からは有能な技術者として見られていた。1981年には、ホーシュと妻アンナの間に息子ユージーンが生まれた。
しかし1984年、ホーシュが複数の偽造旅券を使ってニュージーランドへ再入国したことから身元が疑われるようになり、再び逃亡した。最終的には1985年にアメリカでFBIに逮捕され、その後服役した。
1987年に出所すると、ホーシュは妻アンナと息子ユージーンとともにフィラデルフィアへ戻り、IT部門の管理職として働いた。ところがアンナは薬物への依存を深め、1989年、39歳で薬物の過量摂取により死亡した。当時7歳だった息子ユージーンもその場にいた。ホーシュは後のインタビューで、この出来事について悲しみより怒りを強く語り、苦しい時期には家族を支えていた妻が、生活が安定してから自分と息子を置いて死んだことが許せなかったと話している。
その後の女性関係には、亡くなったアンナを思わせる女性を選ぶ傾向も見られた。ホーシュは、薬物依存状態にある女性を撮影した際、その女性がアンナに似ていると話したこともある。1990年代初めには家政婦を募集し、ヘロイン依存状態にあった、自分より33歳若い10代の女性を雇った。女性の母親は、娘が実年齢より幼く見えたことから、ホーシュがポルノに出演させるために近づいたのではないかと疑っていた。ホーシュとこの女性は1999年に結婚許可証を申請したものの、実際には結婚しなかった。
「性に依存している」――結婚生活、性生活、Eroto.com
ホーシュは、自分の性的欲求についてかなり率直に語っていた。2007年のインタビューでは、自分は「性に依存している」と説明し、性体験を重ねるほど刺激に慣れ、さらに強い刺激を求めるようになると話している。その感覚を、薬物依存者がより強い薬物を求める過程になぞらえていた。
2014年にWHYYの記者ピーター・クリミンズが、2003年の映画『奴隷たち』(Slaves)に描かれている、女性を一日中支配下に置くような関係が実生活にもあったのかと尋ねると、ホーシュは「ほぼその通り」と答えている。複数の女性との経験を一人の登場人物にまとめたり、出来事を映画用に変えたりしていたという。そうした関係を持った女性の多くが、薬物依存の問題を抱えていたことも本人は認めている。
ホーシュは少なくとも3回結婚している。3人目の妻エイミー・マクヘイルとは、フィラデルフィアのケンジントン地区で知り合った。マクヘイルは薬物や酒への依存、精神的な問題を抱えており、肺炎になった際にはホーシュが病院へ連れていった。マクヘイルの母親によると、娘は30歳年上のホーシュを、自分を路上生活から救ってくれた人物として見るようになったという。
ホーシュとマクヘイルは1990年代から交際し、マクヘイルはホーシュのポルノ作品にも出演した。2004年9月にはチャルフォントの自宅で結婚式を挙げたが、2008年に離婚している。それでも関係は完全には切れず、マクヘイルは離婚後もホーシュのもとを訪れていた。2016年6月、44歳になっていたマクヘイルは、ホーシュが暮らすオルニーの家を訪れ、娘への留守番電話で「無事で、ホーシュの家にいる」と伝えた。その後、家族との連絡が途絶え、現在も行方が分かっていない。
1990年代後半から、ホーシュは有料サイト「Eroto.com」を運営するようになった。ケンジントン地区で売春や薬物依存状態にある女性へ声をかけ、裸の写真や映像を撮影した。報酬として現金だけでなく薬物を渡すこともあった。
Eroto.comには、一般的なヌード写真だけでなく、女性が薬物を注射している姿や、首を絞められる、溺れさせられる、首を吊られる、磔にされるといった場面を演出した写真や動画が掲載されていた。「死についての考察」(Thanatopsis)と題したシリーズでは、女性が死んでいるように見える写真が並べられ、ホーシュ自身の説明によれば、演出された写真に薬物の過量摂取で実際に死亡した人の遺体写真も混ぜていた。
サイトには少なくとも2100点の画像があり、数十人の女性が確認されている。2019年頃まで会員制サービスが続き、短期利用なら1日3ドル、年間では20ドルほどで閲覧できた。2017年から2021年頃には、同じサイトでエスコートサービスも宣伝していた。
ホーシュは、薬物依存状態にある女性について、薬物か、それを買うための金を渡せば求めに応じるという趣旨の発言もしていた。一方で、自分をフェミニストや社会批評家だと考え、こうした作品を社会の性や搾取を扱う芸術として説明していた。
作品の中でも、1994年の『恋人たち』(Lovers)や2003年の『奴隷たち』(Slaves)は、ホーシュ自身の生活との距離が近い。『奴隷たち』では、薬物依存状態にある女性とホーシュとの支配・服従関係が描かれ、出演したクリスタ・キレンは、撮影中に本当に自分が殺されるのではないかと思ったと後に振り返っている。2017年の『娼婦!』(Whore!)では、キレンが実際に薬物を使用する姿まで撮影され、本人が自分の生活を「ゆっくりとした自殺」のようなものだと語っていた。
9歳女児への事件と7人の行方不明女性
ホーシュをめぐる性犯罪関連事件の中で、最もはっきり記録が残っているのが2009年の事件である。3月20日、フィラデルフィアのケンジントン地区で、9歳になったばかりのアシュリー・リベラが近所の店へ買い物に出た際、緑色のジープに乗ったホーシュが近づいた。
警察の逮捕記録によると、ホーシュは少女を「セクシーガール」と呼び、車に乗るよう声をかけた。成人したリベラは後に、ホーシュが車から降りて自分の腕をつかみ、ジープへ連れていこうとしたと記憶していると話している。少女は逃げて家族に知らせ、その夜、警察は近くにいたホーシュを発見した。車内からは高性能の双眼鏡、デジタルカメラ、望遠レンズ、眼帯、コンドームなどが見つかった。
2010年、ホーシュは子供を車へ誘い込もうとした罪と、未成年者の風紀を害した罪で有罪となり、2年半から5年の刑を言い渡された。性犯罪者として登録することも求められる予定だった。しかしホーシュが再審を求めた後、幼い被害者と母親は再び法廷で証言することを望まず、検察は事件を続けられなくなった。最初の有罪判決はそのまま確定せず、2015年には記録も抹消された。
この事件より6年前に作られた『奴隷たち』には、ホーシュが演じる人物がショッピングモールで少女に近づき、母親から「娘に近づくな」と怒鳴られる場面がある。2009年の事件との直接的な関係を示すものではないが、未成年者への接近という題材を、それ以前から作品に取り入れていたことになる。
ホーシュが2025年5月に82歳で死亡した後、オルニーの自宅をめぐる捜査が大きく動いた。2026年6月、息子ユージーンが銃器や薬物などを所持していたとして逮捕され、その際、一緒にいた女性が「ブレア・トンゼリ」という別人の身分証を持っていた。実際のトンゼリは2023年に行方不明届が出されていた女性だった。
これをきっかけに警察とFBIが家を詳しく調べたところ、少なくとも7人の行方不明女性との関係が浮上した。名前が公表されているのは、ガブリエル・アマランド、マリベル・フレッセス、ニコール・フサロ、エイミー・マクヘイル、ブレア・トンゼリの5人で、残る2人については一般には氏名が明らかにされていない。
アマランドは2012年から、フレッセスとフサロは2018年から行方が分からなくなっていた。警察は家から押収した写真や動画の中に、アマランドとフレッセスについて、生きている時の姿と、その後死亡したように見える姿の両方を発見したとしている。フサロについても家との関連が確認され、捜査当局はこの3人を含む複数の女性が死亡した可能性が高いとみている。
元妻マクヘイルは2016年、ホーシュの家から家族へ連絡した後に姿を消した。トンゼリは薬物依存に苦しみ、ホーシュの家に長く滞在することがあり、ホーシュは彼女を自宅で介護を手伝う女性だと説明していた。Eroto.comには、顔にあざがあり、口元から血のようなものが流れているトンゼリの裸の写真も掲載されていた。この写真は、彼女に行方不明届が出された後もサイトの代表的な画像の一つとして使われていた。
家から押収された写真や動画は100万点を超えている。その中には、ホーシュが裸の女性をベッドに固定し、首に結束バンドを巻く映像も含まれていた。女性はその後、意識を失い、動かなくなったように見えるという。別の映像についても、捜査関係者は実際の死亡を記録している可能性を調べている。
ただし、ホーシュは何十年にもわたって、絞殺、溺死、首吊り、遺体などを演出した作品を大量に制作してきた。現在の捜査では、演技として撮影された映像、実際の薬物過量摂取による死、犯罪によって死亡した可能性がある映像を、一つずつ分けて調べている。2026年10月初めの段階で、ホーシュが7人の女性を殺害したと法的に確定したわけではない。
ホーシュの経歴の異様さは、現在の殺人疑惑だけにあるわけではない。前衛映画からポルノへ進み、偽札や覚醒剤事件で摘発されると国外へ逃げ、本物の科学者になりすまして働いた。帰国後は薬物依存状態にある女性を作品へ取り込み、性、支配、暴力、死を組み合わせた写真や映像を長年販売した。60代には9歳の少女を車へ誘い込もうとした事件で一度は有罪判決も受けている。
そのホーシュの死後、彼が作品として撮り続けてきた膨大な映像の中から、現実の犯罪が記録されているのかどうかを確かめる捜査が続いている。
出典
Barbara Laker, Ryan W. Briggs, Max Marin, Ellie Rushing — A pornographer’s obsession and criminal past blur fact and fiction in Philly’s missing women mystery
The Philadelphia Inquirer, 2026
https://www.inquirer.com/news/a/raymond-eugene-horsch-olney-philadelphia-missing-women-history-20260802.htmlRyan W. Briggs, Max Marin, Ellie Rushing — A disturbing photo of the reported-missing Blair Tonzelli appeared on Raymond Horsch’s website
The Philadelphia Inquirer, 2026
https://www.inquirer.com/news/raymond-eugene-horsch-missing-women-olney-blair-tonzelli-20260821.htmlEllie Rushing, Barbara Laker, Ryan W. Briggs, Max Marin — Raymond Horsch was convicted of luring a 9-year-old girl to his car in 2009
The Philadelphia Inquirer, 2026
https://www.inquirer.com/crime/raymond-horsch-child-luring-kensington-records-expunged-20260922.htmlBarbara Laker, Ellie Rushing, Ryan W. Briggs, Max Marin — She was just a kid when a strange man tried to abduct her in 2009. This week, she learned it was Raymond Horsch
The Philadelphia Inquirer, 2026
https://www.inquirer.com/news/philadelphia/horsch-missing-women-ashley-rivera-20260924.htmlBarbara Laker, Ryan W. Briggs — Amy McHale, missing since 2016, has close ties to the Olney home that authorities raided
The Philadelphia Inquirer, 2026
https://www.inquirer.com/news/olney-raid-missing-women-mystery-drugs-20260627.htmlPeter Crimmins — When alleged Philly killer R.C. Horsch told me he was a sociopath
WHYY, 2026
https://whyy.org/articles/peter-crimmins-rc-horsch-olney-murder-interview/Jordan Freiman — 7 missing women are linked to Olney “house of horrors” in Philadelphia. Here’s what we know
CBS News, 2026
https://www.cbsnews.com/news/philadelphia-olney-house-investigation/Joe Holden — Raymond Horsch considered “suspected serial killer” amid house of horrors probe, law enforcement sources say
CBS Philadelphia, 2026
https://www.cbsnews.com/philadelphia/news/raymond-horsch-olney-house-philadelphia-serial-killer/Edward Helmore — Does Philadelphia’s ‘house of horrors’ hold the key to seven missing women?
The Guardian, 2026
https://www.theguardian.com/us-news/2026/oct/02/philadelphia-missing-women-raymond-horsch




