セックスで「高次の存在」になる性的錬金術!グノーシス主義カルトの新人類計画とは?

セックスで「高次の存在」になる性的錬金術!グノーシス主義カルトの新人類計画とは? 事件
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性行為によって、人間の内側に眠る力を目覚めさせ、より高次の存在へ変わることができる――。20世紀のラテンアメリカで広がったネオ・グノーシス運動には、性と霊的成長を強く結びつける教義がある。その代表的人物が、コロンビア生まれの神秘思想家サマエル・アウン・ベオールだった。

サマエルは、男女が性交しながらオーガズムや射精を避け、そこで生じる性的エネルギーを体内で変換することで、人間は神的存在へ近づけると説いた。この実践を彼は「性的錬金術(性魔術)」として体系化し、宗教的修行の中心に置いた。本稿では以後、この実践を「性的錬金術」と呼ぶ。その思想に接触しながら、自分自身を救世主へと仕立て上げたのが、ペルーのフェリックス・スティーブン・マンリケである。マンリケのもとでは、性による霊的成長という発想が、女性たちに自分との性交を受け入れさせ、妊娠・出産まで管理する論理へ変わっていった。2019年、ペルーの裁判所はマンリケに、6人を被害者とする加重人身取引の罪で懲役20年を言い渡した。

性交で魂を変える――サマエルが作った「性的錬金術」

サマエル・アウン・ベオールの本名はヴィクトル・マヌエル・ゴメス・ロドリゲスという。1917年、コロンビアのボゴタに生まれた。若いころからカトリックの枠を離れ、心霊主義、神智学、薔薇十字思想などへ関心を広げ、十代後半にはラテンアメリカの薔薇十字系団体フラテルニタス・ロシクルシアナ・アンティクアへ加わった。この団体を率いたアルノルト・クルム=ヘラーは、キリスト教、ヨーガ、錬金術、性的秘教を組み合わせた人物であり、サマエルが後に発展させる性的錬金術にもその影響が見られる。

私生活も教義形成と密接に結びついた。1940年にはサラ・ドゥエニャスと結婚して子どもをもうけ、その後、1946年ごろにアルノルダ・ガロ・モラと出会って生活をともにした。アルノルダは「リテランテス」という霊名を与えられ、妻であると同時に宗教的な協力者となった。サマエルが後に「大いなる秘儀」と呼ぶ性交法、すなわち性交しながら射精を避けて性的エネルギーを保存する修行も、彼女との関係の中で実践されたと研究されている。

1950年に出版した『完全なる結婚』で、サマエルはこうした思想を体系化した。彼の考えでは、キリスト教、ヨーガ、仏教、西洋錬金術などの背後には共通する「性の秘密」があり、男女の性エネルギーを正しく扱うことで人間そのものを作り替えることができる。性交は夫婦の私生活から、魂を変容させる宗教的修行へと位置づけ直された。

グノーシスという言葉は、ギリシア語で「知識」「認識」を意味する。古代のグノーシス的諸宗派では、人間の内部には神的世界に由来するものが宿っており、この世界と自分自身の本当の姿を知る特別な認識、すなわちグノーシスによって救済へ至るという考え方が見られた。サマエルの宗教は、こうした古代思想の名称や発想を取り込みながら、神智学、薔薇十字思想、西洋錬金術、ヨーガ、タントラ、仏教、キリスト教、占星術などを組み合わせて作られた20世紀の宗教体系であり、研究者から「ネオ・グノーシス」と呼ばれることもある。

性的錬金術では、男女が性交すると強力な性的エネルギーが生まれると考える。通常の性交のようにオーガズムや射精へ進むのではなく、性的興奮が高まったところでそれを抑え、エネルギーを体内へ戻す。すると性エネルギーが精神的・霊的な力へ変換され、脊柱を上昇して人間の意識を変えていくとされた。

ここで使われる「クンダリニー」は、インドのヨーガやタントラに由来する概念である。人体の下部に蛇のように巻かれた霊的エネルギーが眠っており、修行によってそれが脊柱に沿って上昇すると考える。サマエルはこのクンダリニーを性エネルギーと強く結びつけ、射精を避ける性交によって覚醒させると説明した。

「性的錬金術」という名前は、このエネルギー変換の発想を表している。通常ならオーガズムや射精へ向かう性的興奮を完結させず、その力を霊的エネルギーへ変える。鉛を黄金へ変える錬金術になぞらえ、肉体的な性エネルギーを精神的な「黄金」へ変えるという考え方だった。

サマエル自身は、この実践を原則として夫婦間の修行とし、性的錬金術を口実に複数の女性を誘惑する男性を批判していた。一方で、性交と霊的成長を強く結びつけ、「正しい性の実践」が人間の霊的段階を左右するという体系を作り上げたことは、その後のグノーシス系運動にも大きな影響を残した。

16歳の少年が「救世主」になるまで

フェリックス・スティーブン・マンリケ・ゴメスは1980年代前半にペルーで生まれ、中等教育を終えた後、電気技師としての職業訓練を受けた。一方で若いころから宗教や秘教思想に強い関心を向け、2002年ごろ、まだ16歳だった時期にはリマのハレ・クリシュナ系の宗教環境へ出入りしていた。そこで当時22歳だったパオラ・ベガと知り合い、後に男女関係となって娘をもうけた。

その後のマンリケは一つの宗教に従うより、ハレ・クリシュナ、グノーシス、仏教、占星術、終末論などを混合していった。さらに「プリンス・グルジェフ」を名乗った。グルジェフとは、20世紀前半に活動した神秘思想家ゲオルギイ・グルジェフのことで、人間は通常は半ば眠ったような意識状態にあり、訓練によってより高い覚醒状態へ進めると説いた人物である。

ペルーのグノーシス団体によれば、マンリケは2012年に同団体へ参加したが、自分を特別な霊的存在のように扱い、独自の命令を出すようになったため、数か月で除名されたという。その後、マンリケは自分こそ神によって選ばれた人物であり、間近に迫る世界の終末を生き延び、新しい人類を作らなければならないと語るようになった。

そこでは性と生殖が中心的な役割を与えられた。マンリケは複数の女性との間に多数の子どもを作り、終末後の世界を「新しい人種」で再び満たすという構想を語った。十人前後の妻と数百人の子どもを持つという話までしていたことが、事件後の報道で明らかになっている。性的錬金術、妊娠、出産、終末論が、一つの宗教的物語の中へ組み込まれていった。

「あなたは選ばれた」――16歳の少女がペルーへ渡るまで

スペイン・エルチェに暮らしていたパトリシア・アギラールがマンリケと接触したのは16歳のころだった。兄のように慕っていた叔父を亡くした後、死後の世界や魂について考えるようになり、あるとき目にした「影」の意味をインターネット上で尋ねた。そこに近づいてきたのがマンリケだった。

マンリケは夢や死後の世界について答え、本や動画を紹介し、生年月日を聞いて占星術の話をした。そしてパトリシアを「選ばれた存在」と位置づけた。Facebookで始まったやり取りはWhatsAppへ移り、深夜まで連絡を取り続けるようになった。マンリケは彼女を「私の愛」「私の妻」と呼び、二人は前世でも夫婦だったと教えた。宗教について答える人物から、友人、恋人、前世からの夫へと立場を変えていったのである。

そこへ世界の終末という物語が加わった。マンリケは、自分には破局後の人類を再生させる使命があり、パトリシアはそのために選ばれた女性の一人だと説明した。2017年1月、18歳になって間もないパトリシアは家族に告げずスペインを離れ、マンリケのいるペルーへ渡った。最初の接触からすでに一年以上が経過していた。

パトリシアがペルーで入った生活では、マンリケの周囲にすでにパオラ・ベガとマヨリ・ガルシアがおり、それぞれとの間に子どもがいた。女性たちは一人の男性の周囲に集められ、生活の規則もマンリケが決めていた。

「快楽のない性交」――悟りと妊娠を結びつけた性的錬金術

捜査後に女性たちが警察へ語った内容によれば、マンリケは服従の見返りとして「悟り」や「啓明」を約束し、それを得るために必要なのが「性的錬金術」だと説明していた。報道では、この実践は「マンリケと快楽を伴わない性交をすること」と記録されている。性交は愛情や性的快楽のためではなく、霊的段階を上げるために指導者と行う修行として意味づけられていた。

ここには、サマエルの性的錬金術との共通点が見える。サマエルも、性交を快楽の完結へ向かわせず、オーガズムや射精を避けて性的エネルギーを保存することを教義の中心に置いた。ただし、マンリケの女性たちについて残された警察供述は「快楽のない性交」と表現するところまでで、マンリケが射精を必ず避けていたのか、女性側のオーガズムも禁止していたのか、性交中にどのような技法を用いたのかまでは確認できない。

一方、性交の管理方法については具体的な証言が残っている。女性たちはマンリケと性交する順番を決められていた。一人の女性は、初期の生活場所には一台のベッドと二枚のマットレスがあり、マンリケが大きなベッドでその日に選んだ女性一人と寝て、残りの者は床に寝ていたと供述している。相手は日によって交代した。

性交は妊娠とも結びつけられていた。救出された女性の一人は、女性たちは「妊娠するまで」マンリケと性交していたと供述し、自分も妊娠した後は性交をしなくなり、パトリシアについても同じだったと述べている。共同生活の中では、一人の女性を妊娠させるまで性交を重ね、妊娠すると性的な対象が別の女性へ移るという流れが生まれていた。

これはマンリケが語った「終末後に新しい人類を作る」という使命ともつながっていた。性交によって悟りに近づくという性的錬金術と、多数の女性を妊娠させて子どもを残すという終末論的使命が、同じ生活の中で実行されていたのである。

性は共同体へ入る条件にもなっていた。ペルー検察の資料を取材したスペインのテレビ報道では、マンリケの「家族」に加わるためには性交が不可欠とされていたと伝えられている。また捜査報道では、女性たちに薬物を飲ませて性的虐待を行ったとの証言や捜査内容も報じられた。パトリシアの家族側が確認したメールには、マンリケが女性へ陰部の毛をどのように剃るかまで指示する内容も含まれていたという。

性的なルールは、日常生活全体の支配と結びついていた。女性たちはマンリケから「忠誠」「尊敬」「道徳的秩序」を求められ、夜に外出しないことなどを命じられていた。外で働く女性たちは一日約12時間働き、収入を共同生活へ入れた一方、マンリケには定職がなかった。パトリシアは国際的に捜索されていたため外で働かず、子どもたちの世話を担当していた。

報道された資料には、女性たちが従うべき奇妙な修行も残されている。未来を見る訓練として水の入った鍋を見つめたり、目が痛くても瞬きをしないよう命じられたり、「師であり夫であるG」に服従する趣旨の祈りを唱えたりしていたという。性交はこうした瞑想、終末論、祈り、生活規則、労働と同じ体系の中に置かれていた。

「548日」の果てに崩れた「新人類計画」

2017年にパトリシアが加わった後、一行はペルー中央部のフニン県サン・マルティン・デ・パンゴア周辺へ移った。2018年7月に警察が発見した際、女性や子どもたちは電気、水道、下水設備のない粗末な住居で生活していた。パトリシアにはマンリケとの間に生まれたばかりの娘がいた。

警察は2018年7月にマンリケを拘束し、パトリシアらを保護した。捜査によって、マンリケが接触していた女性は彼女たちだけではなかったことも明らかになった。2019年3月、ペルーの裁判所は成人女性など6人を被害者とする加重人身取引について有罪とし、マンリケに懲役20年を言い渡した。判決では、女性たちを性的・労働的な搾取状態に置いたことが問題とされた。

2023年には、パトリシアの経験を扱ったドキュメンタリー『548日――カルトに取り込まれて』が公開され、事件は再び注目された。題名の548日は、彼女がペルーへ渡ってから救出されるまでの期間に由来する。家族が保存していた通信記録や司法資料を追うことで、16歳の少女が長期間をかけて別の価値観の中へ移されていった過程が浮かび上がった。

始まりは、亡くなった叔父や死後の世界について知りたいという疑問だった。マンリケは夢を解釈する人となり、秘教を教える教師となり、友人となり、恋人となり、前世からの夫となった。その後に「世界は滅びる」「あなたは選ばれている」「私には新人類を作る使命がある」という物語が入り、性交と妊娠がその使命を果たす宗教的行為として組み込まれた。

マンリケの共同体では、誰と性交するかを本人が決め、女性たちは順番に応じ、「快楽のない性交」を通じて悟りへ近づくと教えられた。妊娠するまで性交を続け、妊娠後は対象から外れるという運用もあった。そして生まれる子どもは、終末後の新しい人類という物語の中に位置づけられた。

サマエル・アウン・ベオールの性的錬金術は、性エネルギーを霊的な力へ変換し、自分自身を変容させる修行だった。マンリケはそこへ、自分こそ救世主であり、自分との性交が女性を悟りへ導き、自分の子どもたちが未来の人類を作るという独自の物語を加えた。

性によって人間を高めるという教義は、やがて一人の男が誰と性交し、誰を妊娠させ、誰が「悟り」に近づけるのかを決める宗教的秩序へと変わっていった。

出典

Arthur Versluis — The Neo-Gnosticism of Samael Aun Weor
American Gnosis: Political Religion and Transcendence, Oxford University Press, 2023
https://academic.oup.com/book/51682/chapter-abstract/419724338

PierLuigi Zoccatelli — Sexual magic and Gnosis in Colombia: tracing the influence of G. I. Gurdjieff on Samael Aun Weor
Occultism in a Global Perspective, 2013
https://www.cambridge.org/core/books/abs/occultism-in-a-global-perspective/sexual-magic-and-gnosis-in-colombia-tracing-the-influence-of-g-i-gurdjieff-on-samael-aun-weor/83DB0575959107193BC9BB4163A7819B

Samael Aun Weor — Sexual Magic
Mysteries of Life and Death
https://www.samaelaunweor.org/en/mysteries-of-life-and-death/sexual-magic

El País — Así embaucó el Príncipe Gurdjieff a Patricia Aguilar
El País, 2018
https://elpais.com/politica/2018/07/14/actualidad/1531586034_996789.html

Jacqueline Fowks — El detenido por la captación de Patricia Aguilar, un egocéntrico que bebe de Internet
El País, 2018
https://elpais.com/politica/2018/07/06/actualidad/1530901004_013238.html

El Comercio Perú — Víctimas del gurú peruano revelan los abusos y explotación a las que fueron sometidas
El Comercio Perú, 2018
https://elcomercio.pe/mundo/europa/patricia-aguilar-victimas-guru-peruano-revelan-abusos-explotacion-sometidas-noticia-nndc-549907-noticia/

RTVE — Patricia Aguilar pide que no se excarcele al líder de la secta: Es peligroso
RTVE, 2018
https://www.rtve.es/play/videos/programa/patricia-aguilar-pide-no-se-excarcele-lider-secta-peligroso/4766307/

El Comercio Perú — Condenan a 20 años a Félix Manrique, líder de una secta en la selva que captó a española
El Comercio Perú, 2019
https://elcomercio.pe/peru/condenan-20-anos-felix-manrique-lider-secta-selva-capto-espanola-noticia-621624-noticia/

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