米カンザス州南西部にある肥育場で2022年6月、数千頭の牛が死亡した。この大惨事が報じられると、ネット上ではさまざまな憶測が飛び交い、それらのいくつかはメディアによってファクトチェックが行われた。
カンザス州で数千頭の牛が死亡した原因は熱中症
カンザス州保健環境局は、高温多湿のために州の南西部で少なくとも2,000頭の牛が死亡したことを発表した。また、同州畜産協会のスポークスパーソン、スカーレット・ハギンズ氏は、国際ニュース通信社「ロイター」の取材に対して、カンザス州西部で6月11~12日に気温と湿度が急上昇したため、牛が熱中症に苦しみ始めたと述べた。
米国のビジネスメディア「DTN」は、牛の大量死を視察したネルス・リンドバーグ氏の見解を報じた。リンドバーグ氏はカンザス州ユリシーズにある複数の肥育場で活動する獣医師で、米国の140万頭の牛の飼料を監督する独立組織「Production Animal Consultation(PAC)」に協力する。
リンドバーグ氏によると、牛の大量死は熱中症が原因だったと強調する。 連日の急激な気温と湿度の上場により、獣医師らが実施した計画は功を奏すことなく、牛たちの命を守れなかったという。その上で「ここでは陰謀や不正行為はありませんでした。病気もウイルスも毒もありませんでした。これは単なる自然災害でした」と付け加えた。
ビル・ゲイツが牛の大量死に関与したという説の真偽
牛の大量死が報じられると、航空機から有毒な化学物質を噴出したというケムトレイル説や、何者かが人為的に食糧不足を引き起こそうとしたという説がネット上で拡散された。中でも、米国を代表する技術者で大富豪でもあるビル・ゲイツ氏が牛を殺した可能性があると主張するインフルエンサーが現れた。
Twitterで29万人のフォロワーを有するチャド・プラザー氏は、「牛は暑さで死んでしまうだけではない」し、ゲイツ氏は「米国で最大の農家」であることから、「おそらくビル・ゲイツが(大量死の)答えを知っているだろう」と主張した。
一方、ロイターが指摘する通り、ゲイツ氏は米国の農地の大部分を所有しているわけではない。 2021年の業界レポートによると、ゲイツ氏は米国最大の私有農地所有者であるものの、所有している農地は米国全体の約0.027%に過ぎない。
ゲイツ氏がカンザスで起こった牛の大量死に関与したという証拠はなく、プラザー氏の主張は誤りであると考えられる。当局や業界が公表している通り、数千頭の牛は熱中症によって死亡したのである。
アイダホ州で撮影された羊の大量死動画の真相
カンザス州での牛の大量死が報じられた数日後、アイダホ州でも羊の大量死が発生し、その様子を撮影したという動画がネット上で拡散された。ファクトチェックを行うオンラインサイト「スノープス」がこの動画の出所について報じた。
動画自体は本物だが、2022年6月に米国で撮影されたものではなかった。この動画に映っている羊の大量死は、南コーカサスの国ジョージアの小コーカサス山脈で2021年8月頃に撮影されたものである。そして、羊は誰かに殺されたのではなく、落雷によって死亡したと考えられている。地元のニュースサイトが、小コーカサス山脈で2021年8月12日、500頭以上の羊が死亡したと報じた。
専門家は、落雷が原因で地球内部に電流が流れる現象「地電流」によって羊の大量死が発生した可能性があると指摘する。
近年はインターネットの発達によって、陰謀論がデマがあっという間に広がってしまう。特異な事件が起こった直後は真偽不明の言説や動画もSNSにあふれ返る。これらの怪しげな情報に踊らされず、冷静に真実を見極めるリテラシーが求められている。
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