トランスヒューマニズムでSF実現? 科学技術で進化する人類の未来

トランスヒューマニズムでSF実現? 科学技術で進化する人類の未来 科学

科学技術の進歩が目覚ましい現代、人類は個体としての肉体や精神を超越し、新たな進化の段階へ到達する可能性がある。こうした時代の流れにおいて、「トランスヒューマニズム(transhumanism)」と呼ばれる学問分野が注目されている。

科学技術によって機能を拡張してきた人類

トランスヒューマニズムは「人類は、特に科学技術によって、現在の肉体的および精神的限界を超えて進化できるという思想または理論」と定義される。

科学技術によって、翼を生やした人や半透明の肌の人、片手で車を持ち上げる人が誕生するかもしれない。著しい肉体的変化が無くても、脳にチップを埋め込んだ人々が、現在の人類の何百倍もの記憶力や思考力を獲得できるかもしれない。AIによって復元された死者の意識や、再生医療によって誕生したクローンも考えられる。

まるでSF小説の世界である。しかし、科学技術による人間の進化は、これまでにも繰り返されてきた。現代では、科学技術の恩恵を受けていない人はほとんどいない。

たとえば、うつ病や高血圧を治療する薬などを服用する場合、服用前と服用後で心身の状態に変化が生じる。ビタミン剤、スーパーフード、プロテインもパフォーマンスを高め、免疫システムを強化し、記憶力を向上させ、精力増強の効果をもたらす。いずれも人間の機能を超越するほどの効果はないが、変化は変化である。

義肢もまた人間の機能を拡張する役割を担う。南アフリカ共和国のオリンピック陸上選手、オスカー・ピストリウスは、先天性の身体障害によって両足の膝から下を切断した。彼は、義足によって有利になるという激しい批判があったにもかかわらず、2012年のロンドンオリンピックに出場した。彼がメダルを獲得していたら、人間の本質に迫る議論が巻き起こったかもしれない。

トランスヒューマニズムの端緒である携帯電話

日常生活で必需品となっている携帯電話も人間の機能の延長線上にある。携帯電話を使えないと、記憶やスケジュール、音楽、カメラ、ニュース、電子メール、地図、GPS、Facebook、Twitter、ゲーム、友人や家族からのメールなどを確認できず、喪失感や孤立感を味わうこともあるだろう。携帯電話のアプリは人間の精神的能力を拡張しただけでなく、所有者に固有の機器である。人々はアプリの選び方で個性を発揮するし、たとえアプリは他者と同じものを使っていたとしても、電話番号やメールアドレスは決して重複しない。

このような携帯電話は人類にとっての「現実」を再定義する。携帯電話によって、人はどこにでも「いる」ことができ、全てを「知る」ことができる。人類は携帯電話を通して、自分自身と自分の属する世界に拡大し続ける。これは他の道具や眼鏡などとはまったく様相が異なり、トランスヒューマニズムの端緒と考えられるだろう。

トランスヒューマニズムが実現する不老不死

トランスヒューマニズムの歴史を研究する哲学者、エリーゼ・ボハン氏は「未来はとても恐ろしい」と語る。英国のニュースメディア「the Guardian」がボハン氏の考察を掲載している。

ボハン氏によると、トランスヒューマニズムは、老化や病気、そして意図しない死に対処したり、終わらせたりすることを目的とした、「私たちを人間以上のものにすることを目的とした哲学とプロジェクト」であるという。

ボハン氏は近未来の人類の姿を予測する。たとえば、2030年に生まれた赤ん坊のゲノム全体が出生時にマッピングされ、そのデータは中央政府が管理する健康記録にアップロードされ、生涯を通じてあらゆる医療診断で参照される。

AI技術によって人間の意識は肉体切り離されたり、多くの人間は労働が不要となって思考や瞑想などに多大な時間を費やせるようになったりする可能性がある。人工子宮が実現すれば、女性は妊娠、出産、母乳育児の束縛から解放される

不老不死の人類が辿り着く先にあるのは、全知全能の神の領域である。ボハン氏は「トランスヒューマニズムは、宗教が伝統的に保持してきた領域に侵入している」と述べる

一方で、ボハン氏は、トランスヒューマニズムによって、SF小説に描かれるディストピアが現実化する可能性も想定する。AIが人類を支配し、人類と価値観を共有せず、人類の価値そのものすら否定する時代が訪れるかもしれない。とはいえ、ボハン氏は、トランスヒューマニズムが人類に健康や豊かさ、そして平等をもたらすだろうと前向きに考えている。

科学技術の発達によって人類は神へと進化するのか、AIに支配される家畜に落ちぶれるのか、それとも想定外の事態に翻弄されるのか、現段階では予測が難しい。トランスヒューマニズムは「人間とは何か?」という本質的な疑問を人類に突きつけている。

参考:Big Thinkthe Guardian、ほか

トップ画像:Pixabay

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