2013年半ば頃から、南アフリカ共和国のマスコミで、「プラズマギャング」と呼ばれる犯罪者たちの存在が取り上げられるようになった。ジャーナリストや放送局、警察、政府のスポークスパーソン、SNSユーザー、そして地元住民は、ハウテン州ヨハネスブルグの町アレクサンドラ(アレックス)で活動しているとされるプラズマギャングについて、ネットやメディアで情報を共有し、都市伝説として拡散された。
ヨハネスブルグにあるウィットウォーターズランド大学の文化学者、ニッキー・フォークオフ氏が、プラズマギャングが都市伝説化した背景について考察し、著書『悩み多き国家:南アフリカにおけるリスク、不安、モラルパニック』で紹介した。
プラズマギャングとは何か?
アレクサンドラは、他の南アフリカの町と同様、アパルトヘイトによる不平等と人種差別の影響で開発が遅れていて、時に政情が不安定となる。20世紀初頭に約3万人だった人口は、現在では推定70万人である。
アレクサンドラで活動するとされるプラズマギャングは、価値あるものを盗む一般的な強盗とは異なるという。プラズマギャングは非常に特殊な手口で家屋に侵入してプラズマテレビを盗むとされる。特殊な手口には、どの家にテレビが設置されているかを外部から知ることができる電子機器の使用だけでなく、略奪の際に住民を眠らせるために使われるムティ(先住民に伝えられてきた呪術)も含まれる。
プラズマギャングは非常に暴力的で、しばしば人に危害を加えたり死亡させたりする。一方、盗んだプラズマテレビを売却するのではなく、それらを解体し、そこから「ニャオペ(ウォンガ)」と呼ばれる麻薬の原料となる白い粉を抽出する。そのため、プラズマギャングはニャオペ中毒者か売人だという。
プラズマギャングの都市伝説が誕生して流布した背景には、ニャオペの中毒者と売人に対する社会不安があると考えられる。
ニャオペ(ウォンガ)とは何か?
ニャオペは、南アフリカの各都市で流通している非常に危険な麻薬である。ニャオペはさまざまな物質の混合物で、安価なヘロインのベースに、アスベストや殺鼠剤、乳粉、重曹、プールクリーナーのような添加物を混ぜ合わせて増量される。
ニャオペは陶酔感や満足感、リラックス感をもたらし、食欲を減退させる効果もある。効果は2~4時間続くとされる。通常は煙状にして吸引されるが、注射する方法もある。費用は1回分が約30ランド(約243円)と報告される。中毒者は1日に数回服用するが、多くの人々はニャオペを買う経済的余裕がないため、犯罪に手を染めてでも資金をかき集めようとする。
プラズマテレビに含まれる白い粉はプラズマではない。プラズマは物質ではなく状態だからである。白い粉の正体は酸化マグネシウムで、ディスプレイ電極をコーティングする役割を担う。酸化マグネシウムは健康食品店で簡単に購入できるが、向精神作用はないとされる。
社会不安を成文化した都市伝説
プラズマギャングが存在しないという事実はほとんど意味をなさない。この都市伝説は、治安と犯罪、麻薬の中毒者や売人、警察の失敗と腐敗、危険な外国人、凶暴な若者、魔術と技術の融合、そして町での生活の不安定さに対する恐れを凝縮したものだからである。
プラズマギャングの都市伝説は、南アフリカの国民が自分たちの住んでいる世界を理解するのに役立つ物語や噂を生み出して流布させていく方法を示している。犯罪はそれ自体が恐ろしいだけでなく、日常生活の予測可能性を損なう隠れた力の存在を暗示する。こうした集団的な不安を物語として成文化したのがプラズマギャングなのである。
参考:The Conversation、ほか
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