肛門から挿入したものが抜けなくなった状態を医学用語では「直腸異物」という。
直腸異物の多くは、肛門を刺激して快感を得ることを目的とした自慰や性行為が原因である。ディルドなどの大人のおもちゃだけでなく、通常では考えられないものが直腸の奥深くに挿入されて抜けなくなった症例もみられる。
海外のニュースから、衝撃的な直腸異物の症例を2件を紹介したい。
80歳男性の肛門から摘出された乳棒
医学雑誌「The Cureus Journal of Medical Science」は2021年11月、直腸に挿入された異物を除去するために開腹手術を受けた80歳男性の症例を報告した。
イングランドに住む80歳男性は、突然の腹痛と膨満感を理由に救急科へ運び込まれた。男性の腹部は膨張していたが、外傷は認めらなかった。過去の何らかの病歴もなかった。入院してCT検査を受けた結果、直腸に乳棒のような物体があり、それが腸に穿孔を引き起こしていることが明らかとなった。
患者は後に、肛門に異物を挿入していたことを認め、異物を身体の開口部に挿入する「polyembolokoilamania」と診断されたことがあると述べた。最初は小さなものを挿入していたが、徐々に大きなものにチャレンジしていったという。
最初に行われた腹部のX線検査では、直腸に大きな異物が存在することが確認された。その後に行われたCT検査では、直腸内に円筒形の物体があり、それが近位結腸の拡張と直腸穿孔を引き起こし、体液が流れ込む原因となったことが判明した。
患者は、物体を取り除くための開腹手術を受けた。取り出されたのは、セラミック製の乳棒だった。患者は術後に回復し、精神科医の治療を受けるため移送された。
54歳男性の肛門から摘出されたダンベル
医学雑誌「International Journal of Surgery Case Reports」も2022年4月、54歳男性の直腸異物の症例を報告した。
ブラジルに住む男性は自ら救急科を訪れ、24時間前から下腹部の痛みが閉塞感を訴えた。他にも、吐き気と2日間の便秘があったというが、体重減少や嚥下障害、食欲不振などの症状は否定した。薬物の慢性的な使用や薬物アレルギーもないという。
身体検査では、患者の腹部に膨満がみられ、特に左腸骨窩と下腹部の触診では軽度の痛みがあった。胸部と腹部のX線撮影では、軽度の結腸の膨張が確認され、ダンベルの形をした異物が直腸にあることが判明した。穿孔はみられなかった。
患者は手術室に移され、局部麻酔が実施された後、肛門鏡検査が行われた。異物はピンセットで摘出できなかったため、最終的には手で引き抜かれた。出血したり粘膜が傷ついたりするなどの合併症はなかった。男性の直腸から出て来たのは2キロの重さがあるダンベルだった。
手術が終了してから12時間後、患者の腹部をX線撮影したが異常はなかった。患者は3日間入院した後、4日目に退院した。
肛門に異物を挿入することで生じるリスク
「International Journal of Surgery Case Reports」によると、直腸異物は救急科でも珍しい症例だが、近年はますます深刻化しているという。
過去5年間にわたって病院で実施された調査では、1年間の直腸異物の発生率は人口10万人あたり約0.15例とされるが、正確なデータは不明である。直腸異物は20〜40歳の白人男性が女性の28倍で、性的な満足を得るために異物が挿入された例が多いという。
直腸異物の患者のほとんどは、羞恥心から異物を自分で抜き取ろうとして何度も失敗し、その後に医療機関を訪れる。症状の多くは下腹部の痛みや直腸の痛み、便秘、出血である。
治療法としては、異物の性質と挿入方法を評価した後、異物の材質、サイズ、位置を考慮して、最適な除去方法を決定しなければならない。身体検査としては、腹膜炎の兆候を除外するための検査、触診、腹部聴診などに加えて、腹部のX線撮影を実施してから異物を除去する必要がある。鋭利なものやガラス片が存在する場合、患者の身体に二次的損傷を引き起こすのを回避するためである。
術後のフォローアップは、患者の健康状態や合併症、除去に関連する外傷などによって変わる。
アナルオナニーやアナルセックスを実行する場合は、肛門から異物を挿入することで生じるリスクについて十分に考えなければならない。
参考:The Cureus Journal of Medical Science、International Journal of Surgery Case Reports、ほか